2024年11月13日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月31日

 英エコノミスト誌(電子版)の7月30日付け解説記事‘Why the world is suddenly wooing Papua New Guinea: Its poor, troubled islands return to the forefront of the big powers’ strategic thinking’が、世界は突然パプアニューギニアに接近しているとして、同国の地政学的位置などその背景を論じている。主要点は次の通り。

(HUNG CHIN LIU/gettyimages)

・パプアニューギニアの港ポートモレスビーが、かつてなく軍事的な注目を集めている」。日本の海自最大の艦船「いずも」や英海軍巡洋艦「タマー」が7月上旬に訪問。またフランス海軍の「ラ・グロリューズ」も今年に入り訪問、8月には米沿岸警備艇が訪問予定だ。

・新たな地政学の時代になり、パプアニューギニアは重要性を取り戻している。第一の理由は、地理的位置だ。同国は米の主要軍事拠点のグアムに近く、豪州への道を支配する。第二に、これまでの金に加えて、電池に使用されるニッケルや銅、環境革命に必要な鉱物資源がある。米仏企業の協力を得て液化天然ガス(LNG)の主要な輸出国となっている。第三の理由は、同国が太平洋島嶼国フォーラム(PIF、18カ国の大洋州地域組織)の主要国であることだ。

・米国は5月にパプアニューギニアと安全保障協力協定に署名、2022年の中国・ソロモン諸島協定への目覚ましい反撃となった。米国は、同国のラエやマヌス島での基地建設などを支援するとともにそれらへのアクセスを期待している。

・米の一連の対中対抗策は目覚ましい成果を達成した。ただし、これは「北大西洋条約機構(NATO)のアジア版」のごときものではない。紛争の際の対米支援を確約するものでもない。それでも、今かかる努力をしておくことは将来の同盟国動員の可能性を高める。それは中国にとり不確実性を高めるものだ。

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 このエコノミスト誌の分析は穏当だ。特に米・パプアニューギニア協定締結は、その迅速さとサプライズ性、パプアニューギニアの選択などで米国の本気度を示す。当然ながら、22年の中国・ソロモン協定締結は米国にとってよほど衝撃的だったものと思われる。ブリンケン国務長官がパプアニューギニアやトンガ(中国の存在が増大。5月米大使館開設)を、オースティン国防長官がパプアニューギニアや豪州を訪問したことは良かった。中止になったバイデンの大洋州訪問も、いずれ実現すべきだ。中国が築いている関係を一挙に直すことは難しいが、それをイーブンにしておくことは重要である。


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