日本は世界の中で競争力を失いつつある中、日本の輸出品目には依然としてエネルギー多消費型産業の商品が目立つ。
自動車と部品が大きなシェアを占めるが、鉄鋼、非鉄金属、半導体、化学品といったエネルギー多消費型産業の輸出額も大きい(図-3)。
国内市場が縮小する中で、稼ぐには輸出市場の獲得が欠かせないが、そのためには競争力の維持と競争力のあるエネルギー価格が必要だ。
日本と同じく製造業がGDPに占めるシェアが高いドイツも産業の維持には、競争力のあるエネルギー価格、電気料金が必要と考え産業用電気料金の大幅引き下げ策を打ち出した。
ドイツでも議論されるエネルギー価格
エネルギー危機により電気料金が大きく上昇したドイツでは、みどりの党のハーベック経済・気候保護相が、鉄鋼、化学産業などの電気料金を補助金により大きく引き下げる案を今年5月に持ち出し、連立政権も検討している。
提案の狙いは、エネルギー自給率が100%を超え電気料金が極めて低廉な米国と同レベルに料金を設定することだ。エネルギー危機が引き起こした電気料金上昇によりドイツ企業が米国へ移転する懸念が背景にある。
電気料金上昇を受け、現在産業用電力使用量の70%までは補助金により1キロワット時(kWh)当たり13ユーロセント(約20円)に設定されているが、連立政権を引っ張る社会民主党の議員団は、8月末に今後5年間エネルギー多消費型に加え脱炭素のカギとなる産業の電気料金を1kWh当たり5セントにすることを提案したと報じられた。
欧州委員会のヴェステアー上級副委員長は、欧州連合(EU)では禁止されている不当な政府補助に該当する可能性があると指摘している。中小企業と家庭に対する補助は可能だが、大企業を補助対象にするとEU内でドイツ企業が優位に立ち競争環境を歪めるから認められない。
政権内からも反対の声が上がった。連立政権を構成する自由民主党のリントナー財務相は、特定の産業の競争力を助けることは、他の競争力を弱めることになると批判した。
再エネでは競争優位を獲得できない
7月にドイツ財務省の科学諮問委員会は、補助案を支持できないとの報告書を提出した。副委員長のヴァイヘンリーダー・ゲーテ大学教授は、この報告書の背景を解説している。その要旨は以下の通りだ。
“脱炭素に対応する製品の製造には電気の利用が増えるので、今後電気料金はますます産業にとり重要になる。ハーベック経済・気候保護相は将来再生可能エネルギー(再エネ)により黄金期を迎えるので、それまでのつなぎとしてエネルギー多消費型産業への補助金が必要と主張しているが、委員会はこの主張にはくみしない。電力の競争優位は極めて重要だが、ドイツの再エネの条件は周辺国よりも劣る。例えばノルウェー(水力発電比率92%)、スウェーデン(水力44%、原子力32%)と比較し、ドイツの電気料金に競争優位はない。そうなると、補助金が一時的なものではなく永遠に続くことになりかねない。市場が歪む”
どの国でも財務省は補助金などの支出については慎重なのだろうが、この委員会の指摘はもっともだ。ちなみにショルツ首相は依然態度を明確にしていない。