2024年11月22日(金)

#財政危機と闘います

2024年10月31日

低すぎる「壁」

 このように、「106万円の壁」も「130万円の壁」も、結果として就業時間調整を惹起している点では同じだが、実は法的に見て根拠が異なる。

 「106万円の壁」については、厚生年金保険法第12条第五号ロに規定する額「八万八千円未満」を12倍した金額であり、法的根拠がある。一方、「130万円の壁」については、日本総合研究所の西沢和彦理事によれば、1977年に当時の厚生省保険局長から都道府県知事に宛てた通知に過ぎず、法律的な根拠があるわけではないそうだ。

 現在の130万円という被扶養認定基準は、先の厚生省保険局長通知が出た77年には70万円だったものが、賃金の上昇に合わせて93年には130万円までに引き上げられたものの、それ以降は据え置かれたままだ。

 いま、先の割引現在価値の考え方を使って93年の130万円を国債金利で運用できたとしたら2023年にはいくらになっているのか計算してみたところ、224万円となった。

 さらにそのうえで賃金の上昇を加味する必要がある。ここでは、女性パートタイム労働者の時給(実質値)を用いると、1993年の872円から2022年では1241円に上昇しているので、224万円×1.42=319万円となる。つまり、1993年に130万円と設定された被扶養認定基準は足元では約320万円に相当することになる。

 現在価値で評価しても賃金上昇との関係で評価しても、130万円は低すぎる。経済合理性で考えるならば320万円にまで壁を引き上げるのが妥当だ。

 しかし、壁となる被扶養認定基準を賃金上昇に合わせて引き上げることにしたところで、今度は「320万円の壁」がクローズアップされるに違いない。そもそも、こうした「壁の問題」を生み出す大本は第3号被保険者にある。

 筆者は、こうした現行の年金制度が生み出す「壁の問題」の抜本的な解決策としては、詳しくは、「国民年金の第3被保険者制度は本当に不公平なのか」をご覧いただきたいが、基礎年金の全額税負担化が望ましいと考えている。

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