戦後の疲弊した経済状況下、海外はもとより、国内であっても研究者が大規模なフィールドワークを行なうことは難しかった。
そんな時期に結成されたのが、人類学、民族学、民俗学、社会学、考古学、言語学の六つの学会による六学会連合(のち、「九学会連合」)という学術団体だった。
“忘れられた”フィールドワークの足跡をたどる
九学会連合は、1950~51年の対馬調査を手始めに、時代が「昭和」から「平成」に変わった1990年の解散にいたるまでの間、日本各地で計11回にのぼる学際的な共同調査を実施した。
渋沢敬三を会長とし、宮本常一ら戦後日本を代表するフィールド研究者が大勢参加した“国家的プロジェクト”だったといえよう。
にもかかわらず、南極観測事業を含む華々しい海外調査に押され、次第に「なかば忘れられた存在」になっていく。
恥ずかしながら私も、九学会連合を知らなかった。言い訳めくが、著者によると、当時の共同調査参加者や関係者を除けば、現在では、これら九つの学会に属する研究者であっても、九学会連合の名を聞いたことさえない人が多数を占めるだろう、という。
「そもそも現在では、国内はおろか海外であっても、研究者は気楽にフィールドワークに出かけるようになっている。いまやフィールドワークとは、わざわざ複数の学会が集まって共同で調査団を結成し、十分な時間をかけて準備を行なうような特別な行為ではない」のである。
しかも、表層的にせよ、インターネットを通じて世界各地の情報が瞬時に手に入る現代においては、研究者が「現場に出会う」フィールドワークの意義は、かつてとは大きく変わってきている。
そんななか、“忘れられた”フィールドワークの足跡をたどり、もう一度、戦後日本と日本人の姿の一端を浮き彫りにしてみせたのが、本書である。