2024年12月23日(月)

WEDGE REPORT

2023年10月21日

 日本にとって台湾は、外国人労働者を獲得するうえでの最大のライバルだ。ベトナムやインドネシアといった労働者の供給国、また人材を求める職種においても共通する。とりわけ今後、日本と台湾ともにニーズが増えると見られる職種の一つが「介護」である。

 すでに台湾は、日本にも増して多くの外国人介護士を受け入れている。台湾労働部によれば、その数は2022年6月時点で22万人を超え、外国人労働者の3割以上を占めるほどだ。99%以上は女性で、国籍ではインドネシアが約80%と最も多い。残りが12%のフィリピンと8%のベトナムだ。

 この3カ国とは日本も「経済連携協定」(EPA)を結び、2000年代後半から介護士を受け入れ続けている。ただし、就労中のEPA介護士は今年1月1日時点で3257人(公益社団法人「国際厚生事業団」調べ)と多くない。外国人介護士の在留資格で最も多いのが「特定技能」の2万1915人(今年6月末時点。出入国在留管理庁調べ)だ。そこに実習生、介護福祉士養成校への留学から「介護福祉士」となって働いている人などを加えても外国人介護士は約4万6000人と、台湾の2割程度に過ぎない。

 台湾と日本の外国人介護士は、就労環境が大きく異なっている。日本での就労先は介護施設だが、台湾の場合は9割以上が個人宅に住み込んで働き、家事全般も任っている。台湾の外国人介護士たちは、なぜ「台灣」を選び、いかなる待遇のもと仕事をしているのか、

 フィリピン南部の都市、ジェネラルサントス出身のエラさん(33歳)は、台北市内の高齢者の自宅で住み込み介護士をしている。台湾で働いて10年目になるベテランだ。

フィリピン人介護士のエラさんと陳さん

「フィリピンにいたときは、マニラのモールで働いていました。でも、給料は安くて……。だから海外へ出稼ぎに行こうと考えたのです」

 フィリピンは国民の約1割が海外で働く出稼ぎ大国だ。フィリピン人は英語が得意なので、働き手を求める国々で人気が高い。女性の場合、介護士や看護師、メイドとして就労するケースが多い。

第一希望はカナダ

 エラさんは当初、カナダでの就労を目指した。賃金が高く、永住の道も開けているからだ。しかし、「カナダ」は狭き門で、エラさんも選考に漏れてしまった。

 カナダを諦めた後、「日本」へ行くことも考えた。その頃、日本はまだ介護分野で実習生を受け入れておらず、フィリピン人が介護士として働こうとすれば「EPA」しかなかった。ただし、EPAへの応募には「4年制大学の卒業生、もしくは看護師の有資格者」という条件があった。エラさんにはどちらの資格もない。「日本」という選択肢も消え、残ったのが「台湾」だった。

「カナダや日本と比べ、台湾に行くのは簡単でした。事前の準備としては、介護と語学の研修を2カ月ほど受けるだけだったんです」

 台湾政府は外国人介護士の就労条件として、入国前に100時間の技能訓練を課している。一方、中国語に関する要件は設けておらず、エラさんもごく短期間勉強しただけで台湾にやってきた。

 逆に語学力を重視しているのが日本である。EPAの場合、日本への入国前だけで半年間の語学研修を受けなければならない。2017年から受け入れ始めた実習生も、日本語能力試験「N4」レベルの語学力が就労条件になっている。「N4」は簡単な会話が成立する程度だが、日本語に馴染みのない外国人であれば数カ月の勉強が必要となる。エラさんが言う。

「わざわざ何カ月も日本語を勉強するのは大変です。しかも勉強したら、必ず日本に行けるわけでもない。だから日本で介護士をしようというフィリピン人は多くないのです」

 エラさんは台湾でまず、アルツハイマー病を患った高齢男性の自宅で働いた。それから2年後に男性が亡くなると、別の雇い主の家へ移る。そうして介護する相手が亡くなるたびに雇い主を変え、現在は4人目となる女性のもとで働いている。

「最初の頃は、中国語が理解できず苦労しました。3人目の女性を介護したときも大変だった。寝たきりで、食事の介助からおむつの取り替えまでやって忙しかったんです。いつ病状が悪化するか知れず、1日24時間休まるときがなかった」

 話を聞いているだけで、エラさんの苦労がしのばれる。そんな大変な仕事であっても、彼女が受け取る報酬は、当時の為替レートで日本円に直すと月7〜8万円程度に過ぎなかった。

「その点、今お世話しているグランマ(おばあちゃん)との生活は楽ですよ。彼女はゆっくりだと1人で歩けるほど元気。家事以外では、私の主な仕事は話し相手になることくらいです」


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