2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年4月1日

 ⑴ 債務過剰問題については、経済政策の実施は主に地方政府に与えられながらも、人事は党中央が握っているので、各地方政府はそれぞれのGDPを躍進させる上で競争関係に立ち、競争に勝利すればその幹部は褒められて中央に栄転する。これが地方政府間の競争を激化させ、中国全体の成長を促した半面、各地方政府は処理できない程の債務を抱えることになった。

 ⑵ 債務を補うため、地方の公共部門は土地の公有制を利用して財政収入を増やしてきた。巨大な不動産バブルを促進してきた。しかしそれには当然のこととして限界があり、いずれ「バブルの崩壊」に帰着する。

 ⑶個人消費は中国経済の中では大きな比重を占めていない。ポール・クルーグマンが指摘する通り、中国の経済成長は政府系企業が引っ張ってきた。中国には、民は貧しくさせておくことによって治安を維持できるという法家思想がある。中国では、経済縮小を反転させる民間需要拡大は期待できない。

 ⑷ 米国の輸入に占める中国(含む香港)の割合は、17年の21.9%から22年には16.7%へ、23年は5月までの実績では13.5%に低下した。米国の輸入の約3割を占める電気機器は対中国シェアを17年の42.2%から23年は26.0%へ、2割を占めた一般機械は32.2%から19.5%へ、共に大きく依存度を下げた。欧州連合(EU)の経済安全保障戦略でも、経済的依存や威圧に関するリスクを念頭に、今後、中国への依存度は低下するのだろう。

危惧される軍事的冒険主義

 以上の中国経済の諸問題はいずれも需要サイドにあるが、この論考がイデオロギー化と称する政策、とりわけ技術力の強化や自存などは、国家主導の供給サイドの強化策だ。強化された供給力に対し、国家が軍事予算を国債で手当し、軍が需要を作り出せれば、その分だけ経済活動は活性化されるだろうが、需要は十分大きくならない。

 クルーグマンは、中国が国内の困難から人々の目をそらそうとして、軍事的冒険主義に乗り出すことを危惧する。

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