2026年8月17日(月)

Wedge OPINION

2026年8月17日

FTA網の構築で世界から取り残され、キャッチアップを急ぐ

 しかし、2000年代にベネズエラで反米色を鮮明にしたチャベス政権の影響力が強まり、FTAA交渉が頓挫すると、対米通商交渉単位としてのメルコスールの重要性は低下した。ちょうど中国台頭の時期に重なったことも大きい。

 資源国の多いメルコスール諸国にとって、「資源の爆食」によって経済成長を図る中国からの恩恵は大きく、関係性は強くなっていった。特にアルゼンチンは、01年のデフォルト(債務不履行)後、金融面で米国と距離を置かざるをえなくなり、必然的に中国との距離は縮まっていった。

 こうしてメルコスールにおける中国の重要性が増すと、他地域とFTAを締結するというインセンティブも低下し、メルコスールは通商交渉の基盤というより、社会・文化的イデオロギーの共有・強化の基盤としての性格が強まった。“内向き”に変質したメルコスールは、世界におけるFTA網構築の潮流から取り残されていった。

 10年より前の年に発効していた中南米域外国・地域とのFTAはなく、限定的な品目のみ自由化した特恵協定をインドとの間で有していたのみである。10年年代に発効したFTAも政治的要因によるもので選定されており、貿易・投資面でのメリットを優先して選択されたものではなかった。

 しかし、10年代半ば過ぎに資源価格の下落で資源高を背景としていた成長サイクルが終わると、ブラジルでは景気悪化に苦しむ産業界から、左派・ルセフ政権の内向きな通商政策を批判し、他地域とのFTA締結を模索すべしとの声が増えていった。通商交渉単位としての意義に疑念を持つ声も、ウルグアイなどから出始め、個別の通商交渉を模索する動きも見られ始めた。

 その後、米国・トランプ政権の通商政策、特に第二次政権発足後の関税圧力は、それまで停滞していたメルコスールと他地域との通商交渉進展の背景となった。欧州自由貿易連合(EFTA)とのFTAに関する署名がなされ、四半世紀にわたり交渉されていたEUとのiTA(暫定貿易協定)が26年5月から暫定適用に至った。こうした中で、日本とのEPA交渉開始に至っている。

メルコスールという市場とは?

 メルコスールは冒頭述べたように、3兆円超の経済規模を持つ。具体的には、世界8位のブラジルを含め年間300万台超の自動車生産台数や、世界生産量の約6割を占める大豆の生産、鉱物やエネルギー資源においても存在感を示す。

 今後、日本がEPA交渉を進めるにおいて、「メルコスールの市場への輸出や資源分野への参入を狙う第三国に対し、日本企業が不利にならない条件を確保すること」が肝要となる。EPAを通じて、関税面のみならず、原産地規則、投資、政府調達、資源確保などの点で有利な競争条件を確保する必要がある。

 具体的には、日本の製造業特に自動車産業にとっては、EU・メルコスールFTAによる劣位を解消することが最低限求められる。完成車の関税率や関税引き下げが注目されがちだが、日本から供給する高付加価値部品が組み込まれやすくなるような原産地規則における累積条項の挿入も必須である。


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