過去に赤字や債務超過があれば、事業性があっても金は貸せない─。「決算を締めてから」そんな常套句で融資を渋るのが銀行なら地方創生はない。
余部鉄橋、東京タワー、レインボーブリッジ、明石海峡大橋……。32歳の磯部武秀社長が率いる磯部塗装は、1907年(明治40年)創業の100年企業。日本を代表するインフラの塗装工事を数多く手がけてきた。全国どこであろうと大規模工事に必要な職人を手配できるネットワークと、防錆をはじめとする技術力は「日本随一で、替えがきかない」(業界関係者)と評される。
数字の背後にある事業そのものを評価する
そんな磯部塗装に、2月、日本政策投資銀行(政投銀)、東京都民銀行、リサ・パートナーズの3社が昨年9月に組成した「とうきょう活性化基金投資事業有限責任組合」(以下、とうきょうファンド)が5000万円の融資と1.5億円の融資枠の設定を行った。市中銀行が対応できなかったからだ。
武秀氏は語る。
「銀行には、はしごを外されました。複数の銀行から、旧会社関連の債務を完済すれば、新たな融資を行うと提案されていました。だから返済を実行したのに、融資はできない、今期の決算が締まった後なら……と言うのです」
決算期は8月。インフラ工事は一般的に年度末に偏り、売掛金の回収にも時間を要する。おのずと運転資金は冬に必要になる。8月まで待つのなら融資は必要ない。この冬に融資を受けられないなら、旧会社債務の返済を急ぐ必要もなかった。
国土強靭化で修繕の重要性が叫ばれる昨今、技術力が高い磯部塗装には追い風が吹く。「高い技術力で取引先からの信頼は厚く、武秀社長ら新経営陣と従業員が堅実な経営と運営を行っている。事業性は十二分」(担当した政投銀の荻島久寛氏)。ではなぜ市中銀行は対応できなかったのか。