2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2016年1月13日

アンプティサッカーロシアワールドカップ2012で日本代表キャプテンを務めた関西セッチエストレーラスの川合裕人選手(写真右)は、日本選手権をもって現役を引退する。今後は日本アンプティサッカー協会のスタッフとして、「20年前の事故からくすぶっていた気持ちを払拭し、立ち直るきっかけをくれた」というアンプティサッカーの普及に務める

同じスポーツの仲間として

 大会は3連休の2日目、3日目の開催ということもあり、スタンドの観客はチームや選手の家族、友人などの関係者が中心となったが、大会初日には、40名近くで観戦に訪れたチームもあった。東京都葛飾区にある修徳中学校・高等学校の女子サッカー部である。中学女子サッカー部の武末彩子監督は「今、この子たちはサッカーを普通にやっています。中にはトップを目指している高校生もいますが、でもそれだけじゃなくて、もっと視野を広げてもらいたいと普段から思っています。9月末にFCアウボラーダ川崎と交流会をさせてもらったんです。バリアフリー体験っていうと、かしこまってしまいますし、仰々しくなるんですが、スポーツという共通点があるので、障がいという目で見るんじゃなくて、同じスポーツの仲間として接する体験ができたんですね。今回はそのお礼も込めて、川崎の応援に来ました」と話してくれた。

体験会には、地元の小学生が多く参加した。川崎市では、東京オリンピック・パラリンピックに向けて、特にパラリンピックにフォーカスした施策を行い、市民の意識にアプローチした取り組みを行っているという

 会場で行われていたアンプティサッカーの体験会に来ていた小学4年生の土方玲志君は、小学校でもらった大会のチラシを見て興味を持ったという。「意外にゴールが入らない」と率直な感想を聞かせてくれたが、土方君のお母さんは「最近、福祉の授業でブラインドサッカーと手話を体験したみたいで。それでアンプティサッカーもやってみたいって言うんで来たんです。でも、スポーツって日々のモチベーションにもなりますし、希望ですよね」と教えてくれた。

アンプティサッカー特有の迫力あるプレー

 試合は、7人制の25分ハーフ、国際規格の40m×60mというフットサルよりも広いコートで行われた。初日はグループステージ、2日目は準決勝・決勝に順位決定戦と合計11試合。決勝戦は日本選手権では3年連続、カップ戦を含めると3大会連続となる同一カードとなった。日本にアンプティサッカーを普及させるきっかけを作った元ブラジル代表のエンヒッキ・松茂良・ジアス選手が率いるFCアウボラーダ川崎と、個人技に優れた代表メンバーを揃え、パスサッカーを展開するFC九州バイラオールの対戦である。

 5月のカップ戦では九州の3選手が持病を悪化させ、大会に参加できなかった。その一人に日本代表で九州のエースである萱島比呂選手もいた。カップ戦での優勝後、「優勝はもちろん嬉しいですが、秋の日本選手権は、メンバーの揃った九州に勝って優勝したいですね」とエンヒッキ選手が語ってくれたのだが、今回九州には萱島選手を含む2名が復帰。9月に行われた日本代表候補合宿にも参加した萱島選手は、大会前に「違和感なく日本選手権に臨める」と語ってくれたが、初日の2試合で8ゴール、準決勝の関西セッチエストレーラス戦でも価千金の決勝ゴールを決めるなど、9得点と実力を見せつけ、決勝に駒を進めた。

得点王に輝いたFC九州バイラオールの萱島選手はアクロバティックなボレーシュートでも会場を沸かせた。(撮影:三重野諭/ THE PAGE)

 決勝戦は一進一退の攻防が続き、萱島選手のボレーシュートにはスタンドから大きなどよめきが起きた。アンプティサッカーでは杖をついてプレーするために、二本の杖で踏ん張ると、より高い打点でのジャンピングボレーが可能になる。九州のチームメートで代表にも名を連ねる星川誠選手は「やっぱ、ヒロのボレーは同じ選手でも鳥肌が立つプレーですよね。障がいっぽくないというか、アンプティにしかない魅力ですよね」と語るが、杖を使うが故のボールを追うスピードやアクロバティックなボレーは、サッカーにはない迫力があり、アンプティサッカーの凄さを伝えてくれるプレーだ。

 試合は、後半にCKからのこぼれ球をつないだ九州が星川選手のミドルシュートで先制。1点を追う川崎は猛反撃に出るが、大会のMVPにも選ばれたGK東幸弘選手が好セーブを連発。守備陣も体を張り、九州が1-0で激闘を制し、2年ぶり2度目の優勝を飾った。


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