2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年4月9日

 2月28日に中国国務院台湾事務弁公室は、「両岸経済⽂化交流合作の促進に関する若⼲の措置について」の31項目を発表した。これは、台湾の企業・個人に中国の国民・企業と同じ待遇を与える優遇措置である。31項目中、12項目は企業向け、19項目は個人向けで、前者としては税制優遇、軽減税率の適用などがうたわれており、また、後者としては台湾の科学技術研究機関、学校などが中国の計画に参入することを可能にすることなどが列挙されている。とりわけ、従来は制限していたインフラ整備や政府調達への参加を認めるなどしたことには驚かされる。

 31項目の措置目的は、台湾の企業、人材、技術を中国に流出させ、台湾を経済的に取り込むことである。さらに、台湾人に対し中国人と同等の待遇を与えることで、台湾における「両岸の同胞意識」を高め、台湾を「国内問題」として取り扱えるようにする意図がある。台湾の行政院が、上記発表のように強い警戒感を示し、対抗戦略を発表したのは当然のことである。頼清徳行政院長は「中国の最終目標は台湾を呑み込むことだ」と述べている。

 台湾の経済は回復してきており決して悪いというわけではないが、中国における給料は地域によっては台湾の2~3倍にも達するという。そして台湾人特に低所得の若者を中心に、中国で働きたいという希望を持つものが増えている。今回の31項目の措置は、そうした人々の期待に応えるものであると言える。他方、台湾の人々の「台湾人意識」は依然として高く、今のところは、金儲けと統一は別問題ということと思われる。しかし、中国による経済的取り込み圧力に付け入られる隙があることは否定できない。

 台湾の行政院が対抗して発表した8つの戦略は、台湾から企業、人材、技術が中国に流出するのを止めようとするものであり、妥当な内容である。ただ、戦略と銘打たれているが、中国の攻勢の前ではいささかインパクトに欠けるきらいがある。この点、台湾総統府国策顧問の黄天麟は、3月24日付け台北タイムズに掲載された論説(‘Defense against PRC’s 31 incentives’, Taipei Times ,March 24, 2018)で、「8つの戦略は第二の防衛線である」として、第一の防衛線としては、「米国と同様のセキュリティ・クリアランス(機密情報取り扱い許可制度)を導入し、国家安全保障のレベルを上げなければならない」と指摘している。そして、その一例として、重要な専門知識を持った台湾の学者・研究者が、中国政府の資金提供を受けた研究プログラムに参加することを禁止するよう提案している。黄氏が言うようなカウンターインテリジェンスは重要な観点である。台湾のカウンターインテリジェンスの強化は、中国による台湾取り込み策の効果を左右するカギの一つとなろう。

 いずれにせよ、中国による台湾取り込みの企ては、今後ますます強まることはあっても、決して弱まることはない。日本としても、台湾を支援していく必要がある。特に経済的連携の強化が重要であり、日台FTAや台湾のTPP加盟を促進することが望まれる。

  
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