2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年1月30日

 1月10日に行われた日英首脳会談では、防衛協力の強化と並び、経済関係の強化も謳われた。首脳会談に際して発出された共同声明のうち、経済に関する主要点は次の通り。

(steffie82/OSTILL/iStock)

 日本と英国は、開かれ、相互に連結した経済としての価値を共有する自由貿易の最も力強い旗手の一員である。日本は、英国及びEUが離脱協定及び将来関係枠組みを定める政治宣言について合意に達したことによる進展を歓迎する。これらの合意は、ノーディール・シナリオを避ける重要なステップであり、また、実施期間を設定することを含め、透明性、予見可能性及び法的安定性を提供する。(第13パラグラフ)

 我々は、日EU・EPAを日英間の将来の経済的パートナーシップの基礎として用いるとの過去のコミットメントに基づき議論を進める。両国の自由貿易に対するコミットメントに沿って、我々は、新たなパートナーシップを日EU・EPAと同様に野心的で、高い水準の、互恵的なものとする。我々は、透明性、予見可能性及び法的安定性を提供すること等によってビジネスの継続性を確保することが最も重要であるとの認識を共有した。我々は、この経済的パートナーシップについてできる限り速やかに効力を生じさせる意図をもって、その構築に速やかに取り組む。我々は、このようなパートナーシップを早急に作成する必要があることを認識する一方で、この新たなパートナーシップを共通の関心分野において、より野心的で強化されたものとすべく最大限の努力を行う。(第15パラグラフ)

 日本は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(注:CPTPP)への英国の加入の可能性について支援することを再確認する。(第16パラグラフ)

 我々は、自由で公正なグローバル貿易を支持するために共に取り組み、全ての不公正な貿易慣行を含む保護主義と闘い続ける。我々は、この観点からG7及びG20において緊密に取り組む。我々は、(1)WTOのルールを貿易上の緊張の根本原因により良く対処するために改革し、(2)デジタル貿易に係る議論を前進させ、(3)WTOの通報及び監視機能を強化し、及び(4)紛争解決制度の機能を向上させることを含め,WTO改革に係る議論を前進させる
ことを追求する。(第18パラグラフ)  

出典:日英共同声明(外務省HP、2019年1月10日)

 日英間の貿易規模は、2017年の統計では、英国から見て日本への輸出額は57億900英ポンド(輸出総額の1.7%)、日本からの輸入額は104億900万英ポンド(輸入総額の2.1%)となっている。これらは小さくはないが、必ずしも目を瞠るようなシェアというわけではない。しかし、英国のEU離脱を控え、日英が経済協力の強化を模索するのは、意味のあることである。

 Brexitの動向は先が読めないものの、日英の経済関係強化は、自由や法の支配といった価値観を同じくする英国の孤立を回避し、これらの価値観を下支えすることに繋がる。共同声明では、WTO改革で両国が協働することが述べられている。既に日米EUの枠組みでWTO改革に向けた取り組みがなされているが、EU離脱後の英国が引き続きこうした努力に参加してくれれば有り難い。

 上記共同声明からも分かる通り、日英FTAと英国のCPTPP参加が模索され、これらが日英経済関係の柱となるであろう。英国のフォックス国際貿易相は、昨年12月30日のCPTPP発効に際し「CPTPPへの参加は、世界で最も急速に成長している経済との新たなリンクに加え、カナダ、日本といった旧来の友好国との強い経済的紐帯を強化することになる」「CPTPPは、グローバルな貿易システムにおいて高まる緊張に対し、自由貿易を促進する助けにもなろう。開放的でルールに則った貿易システムが勝利すること、太平洋における貿易戦争が英国の家計に打撃を与えないようにすることは、我々の利益となる」と述べ、CPTPPの発効を歓迎するとともに、参加に意欲を示した。太平洋に面していない英国がCPTPPに参加することは、CPTPPのグローバルな貿易基準としての意味合いを高めることになると思われる。ただし、英国のTPP参加は、短期的に決着がつく問題ではない。

 そして、日英の経済関係強化は、英国のインド太平洋におけるプレゼンスを高め、もう一つの柱である防衛協力にもプラスの影響を与えると思われる。

  
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