2024年4月27日(土)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2019年4月24日

二重の痛手を負った中国

 米国中間選挙は、2018年11月6日に即日開票され、上院では共和党、下院では民主党が多数派となった。トランプ政権は、下院を民主党に奪還されたのだ。予想されたこととはいえ、トランプ大統領は、今後、厳しい議会運営を迫られる結果となった。

 この結果だけを見ると、中国の思惑通りとなったようにも見える。しかし、今やトランプ大統領のみならず、共和党、そして民主党までもが対中警戒感を募らせている。米国内の政治は混迷を極める一方、対中強硬姿勢は、民主・共和両党を問わない超党派的な風潮になっている。

 つまり、中国が今まで通り、トランプ支持層の切り崩しを測ろうとしても、中国に対する米国議会の結束は固くなっており、こうなれば、中国の思惑通りにはいかない。中国は、これまで通りの対米PDを展開しづらい状況となったのである。どうやら、中国の米国におけるトランプ支持層の揺さぶりの企みは、またしても失敗に終わってしまったようだ。

 中国は、トランプ政権の反応を過小評価していたのかもしれない。中国「お得意」のPDは、トランプ大統領によって即座に行く手を阻まれるどころか、自らが課した関税の何倍もの報復関税が跳ね返ってきてしまう結果となった。これもまた、中国の対米PDの失敗として挙げられる事例である。

 中国の米国に対するPDについては、他にも、孔子学院がスパイ活動容疑でFBIの捜査対象になり、相次いで閉鎖されていることをはじめ、米シンクタンクへの資金提供を疑われはじめている。米国世論の対中好感度が、10年近くで20%近くも落ちているとする米国の調査もある。もともと「対中イメージの向上と米国世論の取り込み」を図ってきた中国だが、少なくとも、イメージ向上には繋がっていないのが現状だ。こうした状況に鑑みても、中国の働きかけは、現状ではやはり成功しているとは言い難い。

「これまで通り」のやり方はもはや通用せず?

 中国はこれまで、米国おいてあらゆるPDを戦略的に展開してきた。有識者から一般世論に至るまで対象を幅広く設定し、手法についても、強引であざとい一方で、ターゲットを絞り、慎重かつ着実に米国世論の中に浸透させてきた。

 しかし、トランプ政権誕生後、こうした活動は「スパイ活動」や「プロパガンダ」と批判され、中国PDの雲行きが怪しくなってきていた。その手法が世論を切り崩す「鋭い」イメージを持ち、ソフト・パワーを重視するPDとは別の手法であることから、文字通り「シャープパワー」とも呼ばれ始めている。

 しかし、米中貿易摩擦が続く限り、そして、中国が、米国が自国の発展を邪魔しようとしていると考える限り、中国はあらゆる手段で米国に対し世論工作を仕掛けてくるはずだ。この奇妙な広告も、我々がいつどこで目にするか分からない。

 大豆農家に対する宣伝工作の一件に関し、中国は、トランプ大統領のツイッター外交の影響力や、共和党のみならず、民主党もが対中強硬で一致している米国議会の動き等を読み切ることができなかった。米国では、民主・共和両党が、中国は「シャープパワー」を使って世論工作を行っていると警戒を強め、これの排除にかかっている。中国の対米PDは「これまで通り」のやり方では、もはや通用しないのかもしれない。

 今回の主役は、米中貿易摩擦で焦点となった「大豆」だった。次に中国は何をターゲットに、どのような働きかけを仕掛けてくるのだろうか? 日本が米中摩擦の火の粉を浴びることも、日本がターゲットになることも十分に考えられる。現に、日本の新聞広告にも「チャイナ・ウォッチ」が登場するようになってもいる。

 前編でも指摘してきたように、日本は、中国PDに対する危機意識の低さを認識しなくてはならないだろう。そして今後、中国のPDの状況と、米中新冷戦の行方をしっかりと見極め、日本としての対応を再検討することが必要となろう。

■修正履歴:ガーディアンのデータに間違いがある可能性が判明したため、2ページ目の図を修正致しました。(2018/04/25 8:50)

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る