インド経済を読む

2019年9月12日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

危うい現地採用やインドのインターンのコンプライアンス遵守現状

 「コンプライアンス違反」となると、さらに懸念すべきことが現地では起きている。それはインドローカル企業や合弁企業で働く日本人のケースだ。

 前述の「出張者への個人所得税課税」であれば、仮に当局からの指摘で判明しても、それが法律で定められたものだとわかれば、グロスアップ計算などを行い、会社がその税額を負担して解決することが多い。これらのインドでの課税はインドでの商売において必要だったと会社も考えるからだ。

 しかし、これがインドローカル企業や合弁企業だと少し事情は異なってくる。先ほども書いたが、インド企業はコンプライアンス遵守への意識は日本企業と比べて非常に低い。知らないのであればまだ良いが、知っていたとしても「言われてから払えばよい」というスタンスの人が多いのが現状だ。それはある程度の規模の会社であってもそうだ。しかもこの場合問題になっているのは会社ではなく個人の納税だ。最悪の場合「個人の問題は個人で解決しろ」と言うこともできるし、実際そう答えるローカル企業が多い。

 私は日本とインドの合弁会社の「日本側」のアドバイザーとしての仕事をすることがあるのだが、その際にこういった課税の話になってもインド側は「そんなもの払わなくてよい」と言い出すことが少なくない。場合によっては「出張ビザではなくて観光ビザにしたら納税しなくてよい」という驚きの提案をしてくるところまである。そうなってくるともう税金云々の問題ではなく「不法滞在」になってしまう可能性すらあるのだ。

 この手の問題は他にもある。

 インドに日本企業が増えるに従い、その日本企業をターゲットにしたサービスを始めるインド企業が増えている。そこには当然営業マンとしての日本人を雇いたいという意識が働く。しかし、日本人に雇用ビザを取らせて雇う場合、法令により最低月14万ルピー(21万円)程度の月給を払う必要がある。インド企業にとってはかなりの高額だ。そうなるとそんな高額の給与を払いたくないインド企業は、ビジネスビザや、場合によっては観光ビザで日本人を呼び、現金でわずか数万ルピー程度の手当を払うことで日本人を雇おうとする。

 そして、これは日本人側も良くないのだが、どうしてインドで一度働いてみたいという思いから、また学生の場合だとインドでインターンというと就職活動で強みになると考えて、観光ビザ&現金手渡し給与という形で軽い気持ちでインドにて実質就労する若者も少なくないのだ。

 これは確実に「日本人の不法就労」である。

 本人は「経験が積めればいいや」と軽い気持ちでインドで就労したかもしれないが、将来就職転職し、さて正規の駐在員としてインドに赴任することになった際に、過去の税金の未納付や、不法就労が判明して二度と成長市場インドの土を踏めない…という可能性も決して低くはないのだ。

 また、仮に雇用ビザを取得して14万ルピー以上の月給をもらいながら働いているケースでも、インド経理人事が必要な納税や申告などの処理をしていないケースもある。ひどいケースだと天引きした源泉税を納付せずにポケットに入れているケースすらあるのだ。疑問に思って問い合わせても彼らは口をそろえて「問題ない」と答えるだけだ。

 こういったコンプライアンス周りのトラブルは、最初に現地のインド企業やローカルのインド人専門家に聞いても「問題ない」といわれるケースがほとんどだ。そのため、私たちは複数の専門家や、同じような立場の日本人の人から情報を集める必要があり、非常に手間とコストがかかることになる。

 不法就労や税金滞納などの記録は、確実に当局に記録され、場合によっては一生付きまとうので、インドで働くつもりならぜひとも肝に銘じてほしい。海外で働くということはその環境や治安以外にもリスクがつきものなのだから。

  
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