オトナの教養 週末の一冊

2019年10月30日

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 「イノベーションを起こそう」「イノベーション推進室」……掛け声であったり、組織名であったり、イノベーションという言葉が使われることが多い。でも、実際にイノベーションが起こることはあまりない。というか、日本ではしばらく起きていない。そもそも、イノベーションというのは、アップルのスティーブ・ジョブズのような、けた違いの天才的な人が起こすものというイメージがある。

”野生化”するイノベーション

(Linas Toleikis/gettyimages)

 実は、それは誤解なのである。今回、早稲田大学商学部の清水洋教授が、『野生化するイノベーション 日本経済「失われた20年」を超える』(新潮選書)で、知られざるイノベーションの正体を解き明かした。

清水洋(しみず・ひろし)1973年、神奈川県生まれ。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。ノースウエスタン大学歴史学研究科修士課程修了。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでPh.D.(経済史)取得。アイントホーフェン工科大学フェロー、一橋大学大学院イノベーション研究センター准教授を経て、早稲田大学商学学術院教授。『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション:半導体レーザーの技術進化の日米比較』で日経・経済図書文化賞受賞と高宮賞受賞。

 まず、イノベーションとは何か? 清水さんは「経済的な価値を生み出す物事」「社会的『総余剰』を増やす」と定義する。そしてイノベーションには「習性」があり、時には「移動」し、そして必ず「破壊的」側面をもっているという。

 具体的にどのような「習性」があるのかといえば、イノベーションは「群生」する。多くの人がイノベーションの聖地として思い浮かべるのは、アメリカ西海岸のシリコンバレーだろう。これはなぜかと言えば、「知識が知識を生む」ということが起きているからだ。

 物を生産する場合、追加的に投資を繰り返しても、物理的な制約から生産の拡大には限界がやってくる。

 でも、知識への投資は減ることがない。知識は増やし続けることができる(もちろん、玉石混交ではある)。

 例えば、シリコンバレーではよく見かけられる光景だが、起業家同士やベンチャーキャピタリストがカフェなどでコミュニケーションをとっている様子が日常的にみられる。こうした交流によって知識が新しい知識を生み、新しいイノベーションが生まれることへの第一歩となる。だから、イノベーションには群生するのだ。

 イノベーションが「移動」するというのも、実は珍しい話ではない。もう15年近く前になるが、薄型テレビやリチウムイオン電池などの日本の技術者が、「給与数倍」「秘書と送り迎えのクルマ付き」などの勧誘で、韓国や中国企業にヘッドハントされている、週末だけアルバイトで韓国企業などへ技術指導に行くといったことを防ぐために、パスポートを会社が預かっている……ということがまことしやかに噂されていた。いくつかは真実も含まれているはずで、要するにいくら囲い込んでも、イノベーションは花開く場所を求めて「移動」するのである。

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