2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2020年6月25日

まだ見ぬ逸品を生活文化とともに提案する

 沖縄県の百貨店「デパートリウボウ」は創業時の商号「琉球貿易商事」が由来だ。公式サイトにある一文に百貨店の矜持が現れている。いわく「海外からの輸入商品や東京の最先端の商品は、戦後物資の困窮した県民にとって憧れのまとで、沖縄県民は当時のデパートリウボウの事を『舶来品のお店』と呼んでいた」。国内外の逸品、それもまだ知られていないものをバイヤーの目利きで選り抜き、逸品が織りなす生活文化とともに提案することが百貨店の本質だ。

 他方、GMSは専門店のテナントで構成される大型商業施設、いわゆるショッピングセンター(SC)に進化した。自然発生的な商店街と異なり、統一コンセプトで策定した商品構成の下で独立した専門店を入居させる業態である。店の入れ替わりが多くニーズの変化に柔軟に対応できるのが強みだ。モータリゼーションに合わせて郊外に立地する店舗が多い。

 これに百貨店はどう対抗するべきか。同化戦略もひとつの手ではある。郊外に大型店を出す、上階のフロアを量販店に置き換える手もあるだろう。あえてブランドや高級路線を百貨店の固定観念として否定する戦略もある。が、そのことがますます百貨店とその他大型店との違いを曖昧にしてしまわないだろうか。同化戦略を進めても後発の弱みで立地や資本力において劣勢に立つ懸念もある。

 そこで考えるに、地方百貨店の生き残りに必要な視点は「原点回帰」だ。大型店化する前の規模に戻し、バイヤーの目利き力を生かした自主売り場に経営資源を絞り込む。

50年前の百貨店の外観を残す洋風建築。現在は地域のコミュニティ施設として活用(写真、函館市地域交流まちづくりセンター)

 函館市、洋風建築が並ぶ旧市街の一角に市の地域交流まちづくりセンターがある。「景観形成指定建築物」に指定された大正末期の洋風建築は1969年まで丸井今井百貨店だった。3階建で延床面積2808平方メートル。増床前の大沼百貨店の半分強だ。地方において、大型化する前の百貨店の規模感覚はこのくらいであった。当該建物の外観は、逸品を生活文化とセットで提案する百貨店の本質を体現しており、新たな地方百貨店の規模やデザインを考えるうえで参考になる。

 フロア構成や品揃えはバイヤーの目利き力が発揮できる分野に絞り込む。たとえば財布や傘など服飾雑貨、ハンドバック、デパ地下の食料品などは今でも自主売り場の主力だ。それもブレイク直前、成長期のメーカーを選ぶことだ。衣料品に多いが企業として成熟すると、路面に独自の内外装で売り場を持つレベルになる。その前の段階が百貨店のターゲットだ。見方を変えれば、才能ある造り手を発掘し育成する「プラットフォーム」としての役割を百貨店が担う。新人作家を発掘、物心両面の育成からデビューまで担う編集者のような立場だ。

 いまや大衆化した百貨店の代わりに、かつての百貨店のポジションを担っているのは、逸品系のセレクトショップだと思う。上野御徒町を発祥に全国に直営店9店を構える「日本百貨店」、伊勢丹のカリスマバイヤーとして名をはせた故・藤巻幸大氏が旗揚げした「藤巻百貨店」など屋号に百貨店を使ったセレクトショップが知られている。

地元の逸品を全国へ「地域商社モデル」の果たす役割とは

 地方百貨店の生き残りに有望なもうひとつの視点が「地域商社」だ。目利き力をもって地元の才能を発掘、育成し全国に発信する方向性である。日本全国、世界の逸品を地元に「輸入」するだけでなく、目利き力を生かして地元の逸品を日本全国、世界に「輸出」する役割だ。地方創生の文脈ではむしろこちらが重要だ。

 地方百貨店では、新潟伊勢丹の「NIIGATA越品」、リウボウの「楽園百貨店」など地元の逸品を集めたコーナーを展開する取り組みが見られる。なかでも先進的なのは松本市に本店を構える井上百貨店の取組みだろう。地元の養蜂場と提携し本店屋上ではちみつをつくっている。さらに老舗の飴店と提携し「信州はちみつキャンディ」などオリジナル商品を開発。自店だけでなく首都圏の百貨店の催事に「井上百貨店」のブースを設けて販売した。他にも「信州フランス鴨のスモーク」、最近の「信州松本カリー名店シリーズ」など井上百貨店の支援で世に出た新商品は多い。

 地域商社モデルは「原点回帰」のひとつでもある。戦前、輸出品の育成を目的に内国勧業博覧会が開催された。ここで出品された物産品を販売する「勧工場」が中心街にあった。また県庁近くには「商品陳列所」があった。博覧会付きの展示即売会や自治体アンテナショップと言ったところか。これら施設は百貨店の発展の陰で縮小、消滅してしまったが、殖産興業の理想はこれからの地方百貨店のあり方を考えるうえでヒントになろう。

  
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