WEDGE REPORT

2021年3月22日

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倉都康行 (くらつ・やすゆき)

RPテック代表取締役・ 国際資本システム研究所長

1979年東京大学経済学部卒。東京銀行、バンカース・トラストを経て、チェース・マンハッタン銀行。2001年に金融シンクタンクのRPテック株式会社を設立。近著に『危機の資本システム』(岩波書店)。
 

見極め難しい「裏口入学」
株価80%急落の失敗事例も

 こうして米国市場では大々的なSPACブームが起きているが、上手い話ばかりではない。実際には、投資家が手痛い損失を被った事例も発生しているのである。

 昨年、SPACを利用して上場した企業の一つ、米国燃料電池トラックメーカーの「ニコラ」。電気自動車の雄として株価が急騰していたテスラに続く成長企業のイメージを利用しつつ、同社はSPAC経由で6月にナスダックに上場した。約10㌦だった株価は一時80㌦近辺まで上昇し、時価総額でフォードを上回る場面もあった。

 だがその後、同社の技術開発力に関して疑惑が生じ、強気の経営で名を馳せたCEOが辞任に追い込まれるなど逆風が強まって株価は約80%急落した。同社の事業見通しの正確性に関して米証券取引委員会(SEC)が調査を開始した、と報じられたことも投げ売りを誘った。

 ニコラのみならず、SPACを通じて上場した企業の株価が初値を下回っているケースはかなりの数に上る、との指摘もある。昨年上場したケースでは、大半の株価パフォーマンスはスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)500に劣後している、とゴールドマン・サックスは分析している。

 だが従来のIPOルートを意図的に回避した「裏口入学」的な悪例の正確な見極めは難しい。潜在的な成長力を持つ未公開企業も少なくないため、SPAC人気は衰えない。景気回復を見込んで企業買収の動きは依然活況であり、株価の先高観を背景とする上場意欲や投資熱も高まる一方である。

 多少の損失は一回の「大当たり」で挽回できるのもIPO投資の一つの特徴だ。SPACは現代金融の生態系にフィットする存在になった、との評価さえある。こうしたトレンドに乗るように、企業投資戦略に焦点を当てるソフトバンク・グループも今年1月にSPACで約6億㌦を調達、2月には新たに2つのSPACを上場させて約5億㌦の調達を目指すと発表した。

 ただ好循環の継続を漫然と願う市場の期待は、過去に何度も裏切られてきた。今年の米国市場のワイルド・カードは、長期金利の上昇である。巨額の財政支出とインフレ許容の金融政策の組み合わせは、想定以上の超過需要を生み出してインフレ懸念を強める可能性がある。更に、株や不動産の過熱を懸念する中国が、今年どこかのタイミングで金融引き締め策へと転換する確率は小さくない。低金利にどっぷり浸かった世界での金利上昇予想は楽観シナリオを一変させる可能性が高い。

 金融界に「ウィン・ウィン」の状況をもたらしたかに見えるSPACは、間違いなく米国の寛容な「財政政策と金融政策」のパッケージが生み出した資本市場の陶酔感の副産物である。コロナ禍は、その対応としての経済政策を通じて異形の資本取引を活性化させることになったが、逆に言えば、コロナが終息に向かう過程で何が起きるのかを想像するのは、それほど難しいことではないだろう。

 米国市場での人気ぶりを見て日本にもSPAC導入が検討される日が来るかもしれないが、価格形成が密室で行われるような不透明さを胚胎する取引はとても持続可能とは思えない。市場活況の〝いいとこどり〟のようなこの「バブル」の構造を理解し、米国市場のリスクに注視する必要がある。

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■「一帯一路」大解剖 知れば知るほど日本はチャンス
PART 1     いずれ色褪せる一帯一路 中国共産党〝宣伝戦略〟の本質
PART 2     中国特有の「課題」を抱える 対外援助の実態            
PART 3     不採算確実な中国ラオス鉄道 それでも敷設を進める事情    
PART 4  「援〝習〟ルート」貫くも対中避けるミャンマーのしたたかさ  
PART 5     経済か安全保障か 狭間で揺れるスリランカの活路       
PART 6    「中欧班列」による繁栄の陰で中国進出への恐れが増すカザフ
COLUMN   コロナ特需 とともに終わる? 中欧班列が夢から覚める日
PART 7      一帯一路の旗艦〝中パ経済回廊〟
PART 8     重み増すアフリカの対中債務
PART 9     変わるEUの中国観 
PART10    中国への対抗心にとらわれず「日本型援助」の強みを見出せ

  
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◆Wedge2021年4月号より

 

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