経済の常識 VS 政策の非常識

2021年4月10日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 この結果は購買力平価によるもので為替レートなら違うという人もいるだろうから、これを見ておきたい。特に注目すべきアジアを中心に見てみよう。図3は、為替レートで換算した一人当たりGDPを、日本、アメリカ、中国、インド、香港、韓国、台湾について見たものである。

 図を見ると、日本は1987年から2000年まで(98年を除く)アメリカよりも高く、2010年から12年まではアメリカの9割を超える水準だった。韓国と比べると、2019年でも、26%高い。

 しかし、為替レートは、長期的には輸出産業の生産性を反映し、短期的には良く分からない理由で大きく変動する。国民の生活水準を示すのは一人当たりの購買力平価GDPである。自由に輸出入される財の価格はドル建てでは世界のどこでも同じ数字になるように動く。しかし、自由には輸出入されない財やサービスの価格は世界各国で異なる。人々は、自由に輸入される財だけでなく自由に輸入されない財やサービスも用いて生活する。後者の価格が高ければ為替レートで測ったドルでの所得が高くても、実質の生活水準は低くなってしまう。生活水準の国際比較において重要なのは実質購買力平価GDPである。

コロナ禍でも見える日本の遅れ

 私は、日本の遅れの大きな理由は、「日本はキャッチアップを終えて先進国になったのだから、もはやキャッチアップ型の成長はできない。これからの成長を支えるのは独自性と独創性だ」というような主張にあると考える。少なからぬ人がこの主張を信じているようだが、まったくの誤りである。事実として、日本は、アメリカを追い越したことがなく、90年代以降はアメリカとの差が開くばかりだった。この間、アジアの国々は着実にキャッチアップ型の成長を進め、シンガポールはアメリカを追い越し、香港はアメリカに追いつき、台湾と韓国は日本を追い越した。

 日本はキャッチアップどころか、キャッチダウンしているのだから、必要なのは他国の優れたものを学ぶことだ。日本にウーバーがなく、有機ELパネルを作れず、安価に電子決済できるシステムが普及していないのは独自性と独創性がないからではない。農業、運輸、電力、金融、建設、卸・小売、食品産業などの生産性が低いのもそうだ。アメリカや他国の優れた事例を真似ることができないような規制、制度、慣行があるからだ。

 産業だけでなく、政府の機能においても、遅れている。コロナショックの中で、日本の政府も世界の水準に追いついていないことが多々あると分かった。

 世界中の先進国が、国民の所得を把握し、コロナショックで経済的に傷ついた人々に素早く給付金を配布することができたが、日本はそれができなかった。

 世界は感染者をスマホの位置情報などで把握しているのに、日本は電話で感染経路を洗い出そうとしていた。結局、人手不足とプライバシーの壁に阻まれ、それもできなくなっている。

 日本は世界一の医療供給体制を維持していると言われていたが、欧米の10分の1の感染者で医療崩壊の危機を招いている。

 ワクチンを作れず、その接種体制でも世界に遅れている。せっかく購入したワクチンを、世界では1瓶で6回接種できるのに日本では5回しか接種できない。日本の報道機関は、厚生労働種の説明に従って、6回接種できる「特殊な注射器」と伝えているが、日本の5回が特殊で、6回接種できる注射器が世界標準なのだ。貴重な薬剤を無駄にしない方が良いに決まっている。日本は世界標準に遅れている。遅れていることを認めない厚労省の言語操作に追随してしまっている。

 日本は遅れていることを素直に認めなければならない。豊かに楽しくするためには、世界を豊かに楽しくしているものを学び真似て貪欲に取り入れ、新しい試みをする人の邪魔をしないことだ。その後で、日本の独自性と独創性を考えても遅くはない。

  
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