2024年4月26日(金)

Washington Files

2021年6月21日

 その背景として、過去の戦争を通じ、「被害者」としての韓国、「加害者」としての日本のそれぞれの根深い国民感情が立ちはだかっていることは言うまでもない。戦後も、わが国内では在日朝鮮人に対する差別意識が色濃く残った。逆に韓国側では、過去の「支配者」に対する怨念が掻き消えるどころかくすぶり続けてきた。

 しかし、1965年、当時の両国政治指導者は、ついに過去のわだかまりを克服し、両国の関係を前に推し進めるため、英断を振るい、関係正常化に向けた「日韓基本条約」締結にこぎつけた。高度な政治判断の下に、戦時賠償の約束と歴史問題清算なども盛り込まれた。

 それでもなお、韓国側に国民感情のしこりが残り続けた。筆者が5年後の1970年、初めてソウルを訪問した際には、日本製のカメラ、携帯ラジオ、雑誌などの持ち込みは禁じられ、日本の主要紙が検閲の対象となっていることに違和感を抱いたことを覚えている。

日韓関係を前進させた金大中氏

 韓国民が自由に日本文化を享受できるようになったのは、1998年、金大中政権発足がきっかけだった。それ以前そして以後の歴代大統領は、対日警戒心の残る国民感情を意識し、むしろ「歴史問題」を政治利用してきた面も少なくない。

 金大中大統領は在任中、それまで禁止されていた映画、音楽など日本文化の解禁、日本の国会での対日親善演説、2002年日韓ワールカップ共催決定、日本の国連常任理事国入りに対する支持表明など、両国関係改善に真剣に取り組んだ数少ない政治家だった。

 その金大中氏とは、韓国大統領選直前の1997年秋、滞在先のワシントンのホテル自室に招かれ親しく夕食を共にしたことがある。その時、両国関係について日本語で熱っぽく語ってくれた言葉が今も忘れられない:

 「『過去の歴史』は決して消え去ることはない。そこから学ぶものもある。しかし、未来に向け前進する妨げになってはならない。まして、政治家がポピュリズム(衆愚政治)を煽る道具に利用することは慎むべきだ」

 彼は、青瓦台の主となった後、この言葉を忠実に実行した。その結果、日韓関係はかつてなく前進したことは事実だ。

 しかし今日、文在寅政権下で、再び「歴史」が蒸し返されている。残念ながら、人気取りに左右されない高潔な政治指導者が登場しないかぎり、日韓関係が米英関係に近づくことは望めないだろう。

  
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