2024年4月26日(金)

ディスインフォメーションの世紀

2022年12月9日

 台湾については7回言及され、その中で貿易、技術、健康、民主的ガバナンス、ディスインフォメーション対策など、台湾との多面的な連携を継続することが掲げられた。カナダ国際関係省(外務省に相当)関係者は、「台湾の重要性について明記されたことで、台湾との協力・連携が今後実施しやすくなる」と歓迎する。駐カナダ台北経済文化代表処の関係者もインド太平洋戦略におけるカナダの台湾重視の姿勢を歓迎するが、「本当にこれが現実の政策として実行に移されるのかについては注視していく必要がある」とも語る。

ディスインフォメーション対策と国際協力の重要性

 台湾との関係でも言及されたディスインフォメーションという単語は、同戦略全体の中で3回登場した。ディスインフォメーションがカナダの民主主義を脅かす脅威であるという認識が現れた内容となっており、台湾をはじめ各国との、ディスインフォメーション対策における国際協力の重要性を訴えた格好だ。

 カナダは、台湾などと比較し、中国からのディスインフォメーション・キャンペーンの深刻な脅威にさらされた経験が少ない。これまでカナダのディスインフォメーション対策はロシアの情報戦に主眼を置いたものが多い。また、中国の影響工作については、先述の通り、日常的な脅威に晒されていると認識しているものの、これに対する調査、分析、対応については、台湾や他の主要7カ国(G7)メンバーなどと比較すれば素人ともいえる。

 カナダの関心事でもあるディスインフォメーション対策における国際協力に関しては、「G7緊急対応メカニズム」を主導するものの、これはG7という限定された範囲にしか適用されず、しかも、まだ具体的協調の機会が得られていない。実際、日本政府がこれに言及することも少なく、カナダと他のG7各国の認識の間に少なからずギャップがあるといえよう。

 カナダは来年、ディスインフォメーションの拡散を食い止めるための新しいプログラムやツールを開発するために、G7代表者の会合を主催する予定であるという。日本をはじめ各国の脅威認識レベルや国内対策の進捗状況が異なることから、同メカニズムを真に実効性のあるものにするために、カナダは難しい舵取り迫られるだろう。

 一方、日本は、ようやくソーシャルメディア時代の海外からの情報戦を含む「新しい戦い」に挑む体勢に入った。ディスインフォメーション・キャンペーンを含む海外からの情報戦対策において遅れをとっていた日本であったが、国際情勢の変化にあわせ、ディスインフォメーション対策において新たな一歩を踏み出そうとしているのだ。

 外務省の22年度補正予算案には、情報戦などへの対応能力強化に1.9億円が盛り込まれ、23年度予算概算要求には、新たに「情報戦を含む『新しい戦い』への対応」を重要政策の柱の一つに据え、パブリック・ディプロマシー関連事業とあわせて541億円が盛り込まれたのだ。そのうち、ディスインフォメーションに関する情報収集や分析、情報発信に5億円をあてる構えである。

日本外交に何が求められるか

 日本は、来年、G7議長国となる。カナダとしてもこれを見据え、日本と緊密に連携し、日本が国際秩序や第三世界への関与、中国関連の諸課題への対処など、優先事項を形作っていく際の作業を支援していく姿勢を示している。

 日本外交に求められるのは、世界の動向を適切に把握し、カナダをはじめとする各国の関心事とメッセージを正しく読み取る戦略的コミュニケーション能力と、インド太平洋地域における外交関係や、ディスインフォメーション対策などの新しい分野でも議長国としてG7をリードするリーダーシップである。

 こうした日本の姿勢は、インド太平洋地域における日本の外交・安全保障面でのプレゼンス向上に利するだけでなく、日加関係のさらなる深化と促進に寄与するはずだ。

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