2023年2月5日(日)

インドから見た世界のリアル

2023年1月8日

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長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

 このような環境から、最近、中国は、印中国境を重視し始めている。印中国境では20年以来、衝突して死傷者がでただけでなく、最新兵器の大規模な部隊展開が続いている(「印中国境現地報告 高まる緊張関係と日本にできること」)。

 しかも、中国軍の人事を見ると、中国軍が、印中国境を重視していることがわかる。中国では、印中国境でインドと緊張を高めた軍人が出世しているのだ。例えば14年に、インド側に侵入事件を起こした時、中国軍の現地司令官は李作成という人物だった。この人物は、17年には、中国の最高軍事指導機関である党中央軍事委員会(トップは習近平国家主席)の委員になった。

 別の例もある。17年に中国はドクラム高地に侵入事件を起こし、緊張を高め、印中両軍は国境全域で戦闘準備態勢に入った。その時、現地で作戦を指導した人物は、何衛東という人物である。この人物も、22年、中国共産党中央政治局委員になった。

 つまり、中国軍の人事は、中国がインドを強い国と捉え、重視し始めていることを示している。日本とインドが連携し、例えば戦闘機の共同訓練を行えば、中国は戦争に勝てるかどうか、一定程度、不安になるはずだ。日印は米国や豪州などとも連携しているから、それも含めて考えると、中国に戦争を起こさせないための、強い抑止力をもつ可能性がある。

悪い流れの日印関係を変える

 次に、この演習は、日印の防衛協力を考える上で、重要である。日本とインドとの間では、すでに物品や機密情報を共有する協定が結ばれ、共同演習も、海上自衛隊の「マラバール」と「ジメックス」、陸上自衛隊の「ダルマ・ガーディアン」、航空自衛隊の輸送機の共同演習「シンユウ・マイトゥリ」が、継続して行われている。また、日印間では、軍事用無人車両の共同開発が進んでいる。

 その一方で、最近は、日印間の防衛協力が円滑に進まない事例が次々起きている。まず、日印の防衛協力を強く推進してきた安倍晋三元首相が暗殺されてしまった。日本中探しても、インドのことをあれほど愛して、インドからも愛され、しかも権力や実行力を持った指導者は、他に見当たらない

 22年は、日印国交樹立70周年だったにもかかわらず、しかも、関係者の多大な努力にもかかわらず、あまり目立たなくなってしまったのも、そのためだ。日印関係は、急に指導者不在の状態を迎えてしまったのである。それに加え、ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアをめぐる日印間の立場の違いが目立つようになってしまった(「ロシアを非難する国連決議にインドが棄権した理由」)。

 特に、ウクライナ難民支援のための国連の物資を運ぶために、航空自衛隊の輸送機をインドに着陸させようとした時は、インドが着陸を拒否した(「なぜインドは自衛隊機を拒否したのか 日印関係、危機へ」)。これは、防衛省・自衛隊全体で、インドとの協力関係を進めることに消極的な雰囲気をつくってしまった。

 インド海軍へ売り込みをはかっていた日本のUS-2飛行艇の話も頓挫してしまった。インドへの武器輸出に対するやる気も削がれていったのである。

 このような環境にあるため、日印が戦闘機の共同訓練を実施し、成果を具体的に提示することは、悪い流れを変えるもので、野球で言えば「逆転満塁ホームラン」のようなものなのである。


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