2024年11月22日(金)

都市vs地方 

2023年7月6日

 専門職からいえば、確かに大学・大学院卒の割合が高い職種だが、ニーズがあるのは理系技術者や医療・福祉の専門職だ。資格職が多いが大学卒だからといって求められる水準に達しているとは限らない。

 他方で現業職に就職するのも、大卒=ホワイトカラーというイメージを持っているなら簡単でない。人手不足が深刻な現業職は、2010年代半ばにリタイアした団塊世代や、最近の50代前半の世代の大卒未満の人材が担っていた。そのような現業職に対する求職が少ないのは、大卒=ホワイトカラーというイメージが少なからず影響しているからではないか。

 また、専門職、事務職そして現業職の割合は1990年代から大きく変わっていないが、大学進学率は1990年前後から上昇しその後約20年で2倍になった。職業構成と学歴構成のミスマッチが起きているという話である。

人材ミスマッチ解消へ何ができるか

 如水こと黒田官兵衛の名言に「天下に最も多きは人なり。最も少なきも人なり」がある。昨今の人手不足問題にも通じるところがある。学歴と職業、あるいはセルフイメージと適性のミスマッチである。

 根本に遡れば、大学偏重の考え方に行き着く。専門職、事務職から現業職まで社会に求められる職業の幅に合わせてキャリア観ないし、それ以前の教育体系も幅広くあるべきだが、実態はそうなっていない。

 大学・大学院に関しては、医学部ほどではなくとも大学と職業の関係を念頭に、求められる職業から逆算して定員構成を再構築するのも一考だ。他方、人文社会系など特定の専門職との関係が薄い分野もある。この場合、深い教養と人間性を培う意義を明確にした上で、大卒すなわちホワイトカラーという意識をつとめて払拭することだ。「大学は出たけれど……」、意に沿わない結果となったときに考えられるメンタル危機を予防する意味もある。

 学歴と適性のミスマッチの未然防止策として、ハローワークや東京しごとセンターで受検できる一般職業適性検査「GATB」もヒントになる。検査項目は、知的能力、言語能力、数理能力、書記的知覚、空間判断力、形態知覚その他合計9つの能力である。自分に合った職業を選ぶための検査だが、知能検査に似た内容も含まれる。これを、可能な限り早期に受け、大学進学かそれ以外の進路かの適性を見極めた上で進路を選択できるようにするのがよい。

 現業職の生産性向上も課題だ。図5は45歳以上55歳未満の正規職員における所得分布を職業別にみたものである。

出所:総務省「就業構造基本調査」(2017年調査)から筆者作成。図中で所得とは正規職員・従業員にかかる主な仕事からの年間収入・収益をいう 写真を拡大

 生産工程から右側の現業職にあたる職業は確かに所得のボリュームゾーンが低めである。これが、現業職で求職者が少ない要因になっていることは否めない。

 生産性向上を工夫することなく、多くの報酬は支払えないから大卒未満を募集するといった発想はないか。低コスト労働として「金の卵」は今や存在しないばかりでなく、金の卵を求める発想自体もはやありえないことが認識されるべきである。

 他方、図5からわかるように現業職でも高所得層は存在する。熟練すれば相応の所得が得られることを示している。ポリテクセンター(職業能力開発促進センター)等を活用の上で職業訓練を推進し、現業職の熟練度を高めることも中長期的な課題となる。

 現業職のうち熟練と関係ないものはIT等の駆使で極力なくす必要もありそうだ。最低賃金の大幅引き上げも同じ効果をもたらす。この思い切ったアイデアは低生産性の仕事を禁止することにも等しく賛否両論あるが、福祉対策と経済対策を切り分けた上で検討するのがよい。いずれにせよ多様なキャリア観に実効性を持たせるには、最終的に職業と所得分布の関係がなくなることが理想だ。

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