2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年8月1日

 総じて中国は、米国・西側の「価値観外交」をあげつらい全面的に対抗する一方、ロシア側との戦略パートナーシップをいっそう強化してロシアの継戦能力を陰ながら支え、なるべくウクライナでの衝突を長引かせることで、ウクライナ支援で体力を削がれる米国・西側諸国から「中国の調停」への期待を引き出し、中国に対する全面譲歩を引き出すという戦略を描いたのではないか。

過度な欧米諸国への対抗意識

 秦剛外相は、このような中国外交新時代の寵児として、3月7日に華々しく就任記者会見に臨んだ(全文は中国外交部公式HPに掲載されていたが、一旦は抹消された。7月31日現在復活している。速やかな保存をお勧めする)。

 彼が席上強調したのは、習近平外交思想そのものであり、「中国こそ独立自主の外交政策を通じて、開かれたグローバル経済と多極化を前提とした人類運命共同体を構築し、米国や西側による利益の独占を許さない《国際関係の民主化》を実現する」「中国式現代化こそが人類文明の新しい形態を提供する。現代化=西方化という迷える夢を打破した」といった強気の発言がなされた。

 そして秦剛氏は米国をめぐって「中国を主要なライバル・最大の地政学的挑戦者と見なす認識は根本的に偏っており、対中政策が理性的で健康的なレールから外れてしまった」と断言し、次のように罵倒した。

「米国側のいう所謂『セーフガードを設ける』『衝突を避ける』とは、実際には中国に手も足も出ないようにさせ、罵っても返事もさせないようにすることなのだ。しかしそうはさせるものか(這辦不到)!」

「米国には、米国を再び偉大にするという大それた感情がある。ならば、別の国が発展するのを受け容れる雅量もあるべきだ。制裁と圧力は米国を偉大にはしないし、中国が復興する歩みを遮ることもできない」

「ウクライナ危機の本質は、欧州の安保ガバナンスの矛盾の大爆発だ」

「中国は危機の製造者でも当事者でもない。衝突したどちらかに武器を提供しているわけでもない。何を根拠に中国に責任をなすりつけ、制裁や威嚇を加えるのか? われわれは断じて受け容れない!」

 このような発想のもと中国外交は、米国・西側とグローバルな主導権を争う動きをさらに鮮明にし、米欧の影響力に限りがあるユーラシア・中東・アフリカにおいて確実に成果を上げたと言える。3月には中国の仲介でイランとサウジアラビアの外交関係が正常化したし(これは王毅外交の置き土産である)、5月の中国・中央アジアサミットでは、中央アジア諸国に中共党体制の優越を認めさせ、ロシアの影響力凋落の代わりに中国の影響力が拡大することを歓迎させた。

 しかし中国の「発展」にとって重要なのは「一帯一路」諸国間の関係だけではない。貿易や技術の吸収をめぐっては、米国・西側諸国との関係は引き続き重要である。そこで中国は硬軟さまざまな「統一戦線工作」を通じて、欧州や日本が中国との関係に前向きになるように働きかけ、米国との関係の分断を図っている。

 とはいえ筆者のみるところ、中国外交が期待した通りに、米国・西側諸国が中国の存在感を尊重し譲歩しているようには見えない(フランスのマクロン大統領という例外はある)。むしろ、以下いくつかの事例を振り返るだけでも、中露両国を牽制し協力を深める動きがさらに重層的に広がったように思われる。

*3月21日、日本の岸田文雄首相が中露首脳会談のインパクトを打ち消すかのようにキーウを電撃訪問し、ウクライナ問題は単に欧州の問題だけではなくグローバルな問題であることを示した(中国外交部は同日「日本側は情勢の温度を下げないことはするな」と露骨な不快感を表明した)。
*3月31日、環太平洋経済連携協定(TPP)のオンライン閣僚級会合が開かれ、英国の加盟が内定し、7月16日に改めて開催された会合で正式決定となった。
*3月末から4月上旬にかけて、台湾・蔡英文総統の訪米が実現し、マッカーシー下院議長との会談が実現した。
*4月21日、中国の廬沙野駐仏大使は「旧ソ連諸国は国際法上有効な地位を持っていない」と発言してウクライナの主権の根拠に疑義を示し、バルト三国をはじめ欧州諸国から中国外交への強い反発が示された。
*5月19日から21にかけて、G7広島サミットが開催され、ウクライナのゼレンスキー大統領も電撃的に参加する中、規範に則った開かれた国際秩序の推進に向けた結束が改めて強く確認された。
*ドイツはショルツ政権の下、メルケル政権とは全く異なる対中認識を次第に深め、7月13日には「中国との経済協力を続けつつも依存リスクを下げる」ことを旨とする対中新戦略を発表した。これに対し同日の中国外交部記者会見では「価値観競争をわめき立てることは時代の潮流に逆行する」と主張した。

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