2023年11月29日(水)

田部康喜のTV読本

2023年8月3日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日、木曜よる9時)はミステリー作家の三馬太郎(中村倫也)が亡き父の実家にある山村に移住して、成り行きで消防団員となり地区の連続放火事件の謎に挑む物語である。東京からやはり移住してきて、村役場の地域おこしに取り組む立木彩(川口春奈)に迫る危機がDNAの二重螺旋(らせん)のように絡み合う傑作である。

(gorodenkoff/gettyimages)

 中村倫也は、映画「サイレント・トーキョー」(2020年、波多野貴文監督)や「人数の町」(2020年、荒木伸二監督)などのサスペンスばかりではなくドラマ「凪のお暇」(2019年、TBS)や「崖っぷちホテル」(2018年、日本テレビ)などのコメディを含ませた作品でも才能をみせている。

 川口春奈は、「silent」(2022年10月、フジテレビ)によって、テレビのビジネス・モデルを一変させた作品の主人公として振り返られるだろう。このドラマは、民放の共同配信サイト「TⅤer」で計7200万回再生された。聴力を失っていく恋人役の目黒蓮との純愛は繰り返し観られるであろう大傑作だった。

 silentと同じシーズンの「相棒」シリーズの視聴率では半分だったのが、SNSなどで話題を呼び、ロケの場所の〝聖地巡り〟現象も引き起こした。

キャスティングにも遊び心

 三馬太郎(中村)は5年前に「明智小五郎賞」を受賞して作家の仲間入りをした。しかし、その後に出版した3冊のミステリーに対する読者の評判がよくなくて、スランプに陥っていた。

 そんな時、岐阜県の山のなかにある「ハヤブサ」地区に残したままの亡き父親の自宅を購入したいという連絡が不動産会社から書状が届いた。太郎は子どものころ、そこで遊んだ記憶もあり、スランプから抜け出す口実も出版社に申し出て、引っ越した。


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