Taipei Timesの9月21日付け社説‘Hou’s clear, but dated vision’が、来年1月に行われる台湾の総統選挙における国民党の候補者である侯友宜の中台関係へのアプローチは馬英九元総統の主張と変わらず、時代に即していない、と批判している。要旨は次の通り。
侯は訪米中、ブルッキングス研究所で総統に選出された場合の両岸関係へのアプローチを公表した。すなわち、「抑止、対話、緊張緩和」(deterrence, dialogue and de-escalation)の「3D戦略」である。
これは、しっかりした分かりやすいメッセージであるが、有権者は、侯のメッセージは内容が薄く賞味期限切れであることに気づくだろう。
侯はワシントンで台湾人記者に対し、北京の「一国二制度」と台湾独立をともに否定し、中華民国憲法と「台湾地区と大陸地区の人民関係条例」の原則に基づき、中国政府との対話、交流の拡大、コミュニケーション・チャンネルの開設を通じて平和と安定を確保するつもりだとの台本を繰り返した。
これは国民党の正統的見解であり、10年前に馬英九総統が提示したものと全く変わらない。しかし、馬英九時代から、少なくとも4つの大きな力学が変化した。
第一に、習近平の下での中国共産党は、はるかに攻撃的で主張が強い。習は台湾併合を「一国二制度」と結び付け、台湾侵攻を排除することを拒否している。
第二に、蔡英文総統は中国を刺激することを慎重に避けて来た。両岸の緊張の高まりは台湾のせいではなく、中国の攻撃的な姿勢の蓄積、新型コロナウイルスのパンデミック、習のプーチンへの擦り寄り、そして米国、欧州連合(EU)、英国、豪州、ニュージーランド(NZ)、日本、韓国を含む国際社会の主要プレーヤーの中国共産党に対する信頼の喪失によってもたらされた国際情勢の力学の変化による。
第三に、台湾の選挙民は中国への帰属意識や国民党が提示しているものからますます遠ざかっている。侯が時計を10年戻すことを望むとすれば、それは時代遅れであることに気づくだろう。
第四に、米国の台湾に対する姿勢は、馬英九政権時代から著しく変化している。
侯は、今まで欠けていた主張やビジョンにおける明確さが必要であることは学んだが、今必要なのは、具体的内容、そして時代に合ったビジョンである。
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台湾の総統選挙は、民進党、国民党、民衆党の3者に加え、鴻海企業の郭台銘が出馬する可能性もあり、全体の状況は不透明である。各種世論調査も変動を繰り返しているが、目下のところ、民進党・頼清徳(蔡英文政権下の副総統)がややリードしており、その点については、大きな変化は見られない。