2024年12月11日(水)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年6月6日

非正規雇用、ロスジェネ、女性問題などを取材するジャーナリスト・小林美希氏。国際経験が豊富なジャーナリストで現在は外国人労働者問題を取材する出井康博氏。そして、不器用に生きる人々に密着して人生の機微を描いてきたノンフィクション作家の山田清機氏。本誌2024年6月号「平成全史 令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史」で、日本の労働問題『「人材雇用を破壊したのは誰だ」非正規雇用、外国人労働者、価格崩壊で弱体化する現代ニッポン』について語ってもらいました。今回はそこでは語り尽くせなかった「教育論」を掲載します。

PTA会長を務めて分かったこと

(maroke/gettyimages)

山田 昨年度まで小学校のPTA会長を務めていたのですが、学校と密に接してみて思ったのは、学校の先生方がみな生真面目だということです。裏返して言えば、先生方に対する「縛り」が非常にきつくなっている。全体的に仕事が細かく、しかも厳密になっている印象です。かつて「でもしか先生」なんて先生が存在した時代もあったわけですが、いまやそんな先生は生存できないと思います。 

 たとえば、PTAで花壇の整備を企画した時のことです。校長先生に許可をもらいに行くと、「ありがたいことですが、アレルギーを起こす花粉を出す花はやめてください。あと、蜂が来ると危険なので、蜂が来ない花を選んでください」と真顔で言うのです。思わず、「蜂が来ない花なんてあるんですか?」と、聞き返したくなりました。

 しかし、バカバカしいとは思いつつ、「あなたの独断でやったことで、万が一事故が起こったら責任を取れるんですか」と問われれば、「取れる」とは言えません。万事この調子で、わずかでもリスクのあることは、やらない、やめておこうとなってしまう。これが、私の見た学校現場の現状です。リスクの存在に、とてもナーバスなのです。

 また、多くのメディアが伝えている通り、先生たちが時間に追われているのは事実だと思います。いじめ、不登校、感染症への対応もあるし、保護者からの相談やクレームへの対応に長い時間を取られるという話も聞きました。そうした問題に対応するための研修や、教科の研修も多く、「教材研究」、つまり翌日の授業の準備ですね、これをやる時間がほとんどなくなってしまう。授業の質はどうしても下がってしまうわけです。

 それを補完しているのが塾、というわけですが、中には「学校は休憩するところ、塾は勉強するところ」なんて公言する子もいるぐらい、本末転倒の状態にあります。しかも、塾に通わせるには大きなお金が必要です。中学受験をする子の場合、小6になると年間で120万円近くもかかってしまう。塾は、教育格差を生む大きな要因のひとつになっていると思います。

山田清機(Seiki Yamada)ノンフィクション作家 1963年富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『寿町のひとびと』『不器用な人生』(朝日文庫)、『卵でピカソを買った男 「エッグ・キング」伊勢彦信の成功法則』(実業之日本社)など多数。(写真・井上智幸以下同)

小林 公教育、教員の労働問題を長らく放置してきたことが問題です。結果として教員への人気が下がり、優秀な人材がいないばかりか、問題のある人が教員になるということまで起きてしまいます。そうすると、今度は「公立はダメだね」っていう話になって中学受験が加速していく。都内で中学受験をするとトータルで500万円くらいの塾の費用が必要になるという話を聞いたこともあります。本来は公教育というのがきちんと行われるべきなのに悪循環です。

小林美希(Miki Kobayashi)ジャーナリスト 1975年茨城県生まれ。神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーに。著書に『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)など多数。

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