韓国の対応にも微妙な変化が見られる。もちろん、戦略目標としての「非核化」が放棄された訳ではないが、李在明大統領は本年9月のBBCによるインタビューで、「問題は、(非核化という)究極の目標を追う「無益な試み」を続けるか、それともより現実的な目標を設定するかということだ」とした上で、米朝首脳会談が行われた場合には「核兵器の廃棄」ではなく「凍結」で合意することに同意すると話している。同大統領は「非核化」を長期目標にシフトさせたのだ。
「力による平和」に直視を
核ミサイル開発の「凍結」は、たとえ北朝鮮が受け容れるとしてもそれで問題が解決する訳ではない。結局のところ問題は、現に存在し今後さらに強化されるかも知れない北朝鮮の核を如何に抑止するかということになる。
現時点において北朝鮮は、通常戦力では韓国に及ばず、合理的に考えれば朝鮮戦争のときのような南進が起こる可能性は低いと思われる。しかし韓国には少なくとも二つの懸念がある。一つはロシアにも支援された北朝鮮の通常戦力の強化、もう一つは米国に到達するICBMの開発である。
米国までをカバーするICBMによって米国の介入を抑止し、そのうえで通常戦力を強化することができれば、北朝鮮の韓国に対する軍事的挑発の蓋然性は高まることになる。このような状況の中で、韓国自身の核武装に対する欲求が再び持ち上がってくるのはある意味自然なことであろう。
国際社会は過去十数年の間、北朝鮮がこれほどの核ミサイル開発を成し遂げることを阻止できなかった。北朝鮮の核開発に対する中露間の微妙な脅威認識の違いを中露離間に利用したり、あるいは露朝間の軍事協力に対する中国の懸念を三カ国関係の分断に利用したりすることもできなかった。「力による平和」を直視した、新たな発想と行動が求められている。
