3月末に予定されていたトランプ氏の訪中は、イラン攻撃の余波で延期されたが、いずれ年内には習氏との会談が行われるだろう。会談のメインテーマは「国際秩序」と「経済」になるのではないか。その際、例えばディールの一環として台湾がカードになる、つまり「台湾を好きなようにしていい」とトランプ氏がささやく可能性への懸念は、多くの専門家が指摘しているところだ。
台湾で何かが起きれば、沖縄が大きな影響を受けることは間違いない。「台湾有事は沖縄有事」になることは避けられないだろう。台湾有事がすぐに起きるかどうかは様々な議論があるが、次の米中首脳会談でトランプ大統領がどんな発言をするのかは注視すべきだ。
また、NSSでも、「北朝鮮の核とミサイルは重大な脅威だ」という従来の主張さえ発信しなくなったアメリカを見ていると、東アジアの安全保障への関心は次第に薄れてきているのではとの懸念もある。
中国にとって高市政権は対峙しづらい相手かもしれないが、衆院選の結果を踏まえると、中国も今後数年間は付き合わざるを得ない。彼らとしても戦略を練り直すだろう。その時、日本はどう対応するのか。また、日米同盟は堅持しつつも、ただトランプ政権に追従するだけではなく、言うべきことは言うという関係にならなければならない。
もう一つ、日本について懸念しているのは、自衛隊のことだ。稲嶺さんのご指摘の通り、彼らは非常に長い間、沖縄で苦労を重ねてきた。かつて私が那覇に駐在していた98年の夏から2000年頃を思い出すと、「ここまでやるのか」というくらい、地元との大変丁寧なやり取りをしていた記憶がある。
しかしながら最近、その徹底したきめ細かな姿勢に「変化」が出てきているように思える。
稲嶺 うるま市のゴルフ場跡地に陸上自衛隊の射撃練習場を整備するという計画が取りやめになったことは、非常に残念なことだと思う。自民党の沖縄県連まで反対した。今まで本当に涙と汗を流し、話し合い、地元の了解を得ながら進めてきたものが、安全保障環境が非常に厳しくなったとはいえ、信頼関係を一挙に崩すようなことがあってはならない。これからも非常にきめ細かく地域住民と話し合いをしながら進めてもらいたい。
沖縄と本土の双方が
見つめるべきこと
──「二つの和解」を進めていくことには今後も様々なハードルがあるが、これを乗り越えていく必要がある。
時代の変化を見据え、本土の人に伝えたいことは何か。
稲嶺 一番大事なのは、人間関係をつくることだ。小渕さんにしても、野中さんにしても、沖縄とは何らかの関係があり、接してきたからこそ、面倒を見ていただけた。人間というのは、いきなり「お願いします」と言って、あまりよく知らない人に頼られても、親身に面倒を見ることはない。
麻生太郎さんとの面会も忘れられない。ある時に、たまたま一対一で話す機会があった。その時、麻生さんは穏やかに、静かな声で「稲嶺さん、沖縄も考えなきゃいけないよ」と言った。
当時の沖縄県知事は翁長さんで、官邸には安倍(晋三)さんと菅(義偉)さんがいた時代だ。
「私は官邸に対して、沖縄を『法律』だけで進めようとしてはだめだ、『感情』は残ると何度も話をした。しかし、分かってもらえない。これが現状だよ。だから沖縄もそれに対応するために努力してくれ」と親身に言われた。
つまり、いかに「沖縄の心」を持つ人をつくれるか。政界に限らず、財界は財界で、報道は報道で、心の底からの沖縄の応援団をつくらない限り、沖縄のために命懸けで動いてくれる人はいない。今、そうした人と人とのつながりが途絶えている。次の世代の方々にはどうか頑張っていただきたい。
飯塚 沖縄の歴史を振り返ると、初代沖縄開発庁長官を務めた山中貞則さんしかり、何かが大きく動く時にはそれだけの思いを持った人がたくさんいた。官邸との関係が冷え込んだ時代もあったが、細々とであっても、そのパイプはつながってきた。繰り返しにはなるが、稲嶺さんのおっしゃる通り「人と人とのつながり」こそが最も大切だ。特に沖縄には、制度や法律だけでは動かせない何かがあるのは間違いない。
だからこそ、沖縄の側からも、そして本土の側からも、様々なアプローチや交流が活発になることを切に願う。
~トークイベントを終えて~
当日、会場に用意された椅子はすべて埋まり、100人を超える参加者で立ち見が出るほどの盛況ぶりとなった。92歳になる稲嶺さんは、私の質問に淀みなく、時にはユーモアを交えながら的確にお答えになり、その記憶力と時代の潮流を見極める〝選球眼〟には驚かされた。終了後は多くの方がサインを求めて列をなし、稲嶺さんは一人ひとりに「感謝!」と書き添えていたのが、とても印象に残った。
そして、飯塚さんは「本土側は丁寧に、繊細さをもって『和解』の努力を続けていかなければならない」と述べる。本書で飯塚さんは、本土との関係を考えるうえで知っておくべき「琉球処分」の歴史などにも詳しく言及しており、沖縄の過去、現在、そして未来について考えるための視座を提供している。
一人でも多くの方に本書を手にとっていただき、稲嶺さん、飯塚さんの考えに触れてほしい――。トークイベントを終え、その思いがより一層強まった。(編集長・大城慶吾)
