治山工事は両刃の剣
ところが治山事業でもとんでもない事案に遭遇したことがある。
写真3のような崩壊地を治山工事で復旧させようというのだ。それはいいのだが、この崩壊地は渓流の奥まったところにあって、そこで工事するには施工資材・機材や人員の運搬のため県道から長い工事用道路を開設する必要があるのだ(写真4)。
典型的なⅤ字谷で、急傾斜の山腹に道をつけるのは容易ではない。すでに何カ所か崩壊しており、それらも復旧しながらの道路開設なのだが、写真5から分かるように右側の切土法面の斜度と高さを見れば、この道路工事の困難さが容易に見てとれる。
しかも、切り取った土砂を谷へこぼさないようにするのも難事であり、豪雨や雪による崩壊の危険性も増す。ただでさえも斜面に開設した道路は災害の誘因となりやすいのだから、とんでもないところに手を付けてしまったものである。
どうしてこんな工事が採択されるのだろうか。
治山事業もいわゆる公共事業の1つであって、防災施設という公共財を建設することによって地域に経済効果をもたらすという2面性をもっている。個々の事業の採択に当たっては、公共財としての重要性が優先するはずなのだが、地域の経済効果の発揮に傾くケースが往々にして見られる。
その要因は、公共投資額の地域間のバランスの維持にある。特に防災工事のように個々の緊急性が違う事業については、連年の事業費配分が変動することが多く、地域間で不満が生じることが多い。そこでこれを解消するため、緊急性の順位が低い工事であっても、事業費配分の地域間バランスを維持するために行われることがある。
さらにそこに省庁間の予算配分のバランス維持の問題が加わって、様相は複雑化する。すなわち、本来優先順位の低い工事であっても、当該省庁の予算規模を維持するために、行われることがある。端的に言えばナワバリの確保である。
ここの工事もそうした臭いが濃厚である。写真3の箇所は、相当古い崩壊のようであり、自然復旧していないところを見ると現在でも土砂が動いている可能性はあるが、谷の最奥部で下流の保全対象までは相当距離があって、緊急性は高くないと思われる。まずは山腹工事で崩壊を直接抑えるのではなく、航空実播などによって緑化を試みて様子を見るのが最善のようだ。念のため谷の出口付近の県道からアクセスのよい部分に土砂止めの治山ダムを建設して、崩壊地からの流出土砂をせき止める予防措置講じれば、当面は十分ではないか。
