2026年6月1日(月)

Wedge REPORT

2026年6月1日

 一番の問題は、工事用道路が新たな土砂崩壊の誘因になることである。この谷はツガやモミの天然林で森林施業の痕跡があまりない。このような自然度の高い森林を撹乱することは、防災を大義名分にかざしてはいるが、森林を守るという本来の森林行政への裏切り行為であろう。

 しかし、往々にしてそのような高い視座からの行政判断は見られない。結局のところ森林技術が、治山、木材生産、造林などの分野に細分化された寄せ集めに過ぎず、それらを総合的に勘案して森林を守るためにどうするべきかという最も重要な視点が欠如しているのである。

予算をかけて森を悪くする

 せっかく予算を確保して現場に投じた資金が、森林の質の向上や量(面積や蓄積)の増加に役立っているとは限らない。前項に見られるような適切さを欠いた仮設工事による森林・林地の破壊もその一角である。

 治山事業ではないが、木材生産の伐採・搬出作業で粗雑な作業道に起因する表層崩壊もその最も顕著な例であろう。治山工事を請け負う土木建設業者たちは、災害復旧工事の仕事が増えるので、大きな声では言えないが、ありがたいと口をそろえる。

写真 6 作業道に起因した表層崩壊

 山荒しの代名詞となる作業道については、SNSなどいろいろなツールで紹介され、行政当局も十分承知しているはずなのに、どうして指導を徹底しないのだろうか。林野庁のホームページを見れば、美しく描かれた森林のポンチ絵が飾られているが、現場の破壊された森林・林地との乖離に心が痛まないのであろうか。

 とにかく行政は予算の拡大・確保が至上命題であって、そのためには肝腎な森林・林地を傷つけてもかまわないと思っているのだろう。現場に立つとそのことがよくわかる。現場職員の人たちは忖度せずにそのことを上部に訴えてもらいたいものだ。

自然にやさしい治山

 林野庁もいいことはやっている。生物多様性の復元と持続的な地域づくりを進める赤谷プロジェクト(群馬県みなかみ町)では、治山ダムによって分断された渓流の生態系を回復させるため、既存の治山ダムの中央部を開削した。

写真 7 開削された治山ダム(関東森林管理局のホームページより)

 これによって上下流の水流の連続性が回復し、魚類や水生昆虫の往来が可能となった。もちろん洪水時には土石の流下抑制にも役立つ。

 この工事の担当者は、旧弊を打ち破るのに苦労したようであるが、それは容易に予想されることである。しかし、このような先進的・技術的取り組みは、広大なフィールドを擁する国有林においてこそ積極的に行うべきことと評価したい。

 ポンチ絵ばかりなく壮大な森林の現場に、よりよいビジョンを描いてもらいたい。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る