その一方で、日本側がガイドライン見直し作業を通じて目指すものが米国のそれと若干ずれていることを考えると、米国が新ガイドライン策定後の日本に期待する役割を、どこまで日本が果たすことができるか、また、果たす用意があるのかについては、不安が残る。中谷防衛大臣が、カーター国防長官との共同記者会見の中で、ガイドラインの見直しについては「日米同盟の抑止力、対処力を一層強化し、また、日米両国が国際社会の平和と安全に、より広く寄与することが可能になる」と述べつつも、「ガイドラインの見直しと安全保障法制の整備との整合性を確保することの重要性」について言及した。このことを考えると、最終的に国会で成立することになる安全保障法制が新ガイドラインの効果的な運用の妨げになるリスクは残っている。
さらに、安全保障法制により法的に認められる自衛隊の活動範囲を拡大したとしても、それが直ちに自衛隊が実態上、これまでより幅広い活動を一朝一夕にできるようになることを意味するわけではない。
例えば、海外での任務がより頻繁になるのであれば、現在のような地域密着型の部隊編成をどこまで維持するのか検討する必要が出てくるかもしれない。長期の海外任務に耐えうるような訓練も必要になるし、本土から離れた場所で長期間活動するための後方支援体制も整備しなければならないだろう。また、これまでよりもハイリスクな任務に自衛隊を送り出すことになるのであれば、任務中に命を落としたり、帰国後、任務遂行中の事故なので元の任務に就くことができないほどの重傷を負うような場合も出てくる可能性もあるが、その場合の遺族の支援や傷病兵のリハビリ・社会復帰支援についても考えなければならないだろう。当然ながら、これらの面で新しい施策を考えるのであれば、それに伴う予算の手当ても必要になるから、防衛費も今までのようにGDP1%周辺をうろうろしているような状況は打破しなければならなくなるが、厳しい日本の財政状況を踏まえても、そのような防衛費増額が必要だと、国民に対して説明をしていく気概と責任が政治家には求められる。
ガイドラインの見直しは、それが終了したからすべての作業が終了なのではない。むしろ、日本の安全保障政策にとっては、ガイドライン見直し作業の完了が新たなスタート地点といっても過言ではないだろう。
戦後70周年という大きな節目の年に、日米防衛協力のための指針という日米同盟、ひいては日本の安全保障政策にとって重要な文書が見直される意義は大きい。このガイドライン見直しを契機に、日本で、自国の安全をどうやって守るべきなのか、そのためには、アジア太平洋地域やそれ以外の地域に対し、日本はどのような安全保障政策を形成していくべきなのか、などについて、活発な議論が行われることを期待したい。
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