2024年4月27日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2015年8月26日

ーー本書には、読者それぞれの関心があるテーマから読み進められそうですね。

五十嵐:ネットなどでの反響を見ると、大きくふたつの入り口から手に取ってくださっている方がいらっしゃるように思います。ひとつは3.11や震災後の福島と言った関心を入り口にする人たち。もうひとつは、都市論や郊外論という入り口です。

 まず原発事故後の福島に対する語り口は、どうしても東京と原発、東京と福島の関係を二項対立で捉える構図に閉塞している場合が多いと思います。これは原発に対し、どのような態度を取るにせよです。だからこそ、その二項図式からは見えてこないものを本書では描きたかった。

 常磐線を見ると、まず柏などの住宅地、すなわち労働者の供給地が、その先に農業地域が配置され、水戸をはじめ点在する地方都市をはさみ、日立のような工業地域があり、さらに昔の炭田やエネルギー供給地域へと連なっている。そのように東京からの距離に応じて、首都圏に様々な資源を供給すべく配置されている沿線を徐々に見ていくことで、東京対原発、東京対福島ではないグラデーションを理解することが重要だと思うんです。開沼さんの著書『はじめての福島学』(イースト・プレス)の帯に「福島難しい・面倒くさいになってしまったあなたへ」とありますが、福島が自分とは切り離された問題になってしまわないためにも、福島への地理的な連続性を見ること、つまり福島の被災地と東京が連続的に繋がっていることを感じてほしいなと思います。

 また開沼さんが担当された章で強調されていることに、歴史的な連続性があります。震災をきっかけに被災地としての福島に関心を持った人達にとっては、震災で歴史が画期になっていて、それ以前にこの地域にどんな歴史の地層があったのか考えたこともない人も多いのではないでしょうか。地理的な連続性に加えて、3.11以前と以後の歴史的な連続性を見てゆくこの本で、開けてくる新たな視野もきっとあるだろうと思っています。

ーーそれでは郊外論を入り口とする人たちへはどうでしょうか?

五十嵐:都市や郊外を語る本には、大都市からの同心円で考えるものが多い。たとえば、郊外論なら首都圏環状線の国道16号線沿いとかがクローズアップされますし、都心、地方都市、限界集落といった切り口もそうですよね。同心円で考えることで見えてくるものはもちろんありますが、本書のようにラインで見ることで、もの凄く大きい東京の重力が、東京から段々と離れていくに従ってどのように変化していくのかを描き、それによって現在の日本の地方のありようと、逆説的に東京のありようも描くことができるのではないかと考えたのです。そういう意味では、東京と名古屋というように、アイデンティティのある大都市圏を結んでいるわけではない常磐線は、東京の重力を観察するのには良い路線だったと思います。都市論や郊外論に興味がある読者には、沿線という一本の線上に配置された地域という空間認識の有効性を、問い直すきっかけにしてもらえたら嬉しいですね。

  
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