2024年4月27日(土)

解体 ロシア外交

2016年7月12日

 また、2月14日には、同じくRUSADAのニキータ・カマエフ前最高責任者が心臓の病気により52歳の若さで急死した。カマエフは一連の疑惑により更迭されていたが、スキーの最中に突然心臓の痛みを訴え、死亡した。それまで、彼に心臓疾患はなかったという。それから一週間ほどすると、英国の『サンデー・タイムズ』が、カマエフがドーピング問題に関する暴露本を執筆する準備をしていたことを報道した。その報道により、彼の死についての疑念が一気に高まった。

 ロシア政府は、国家ぐるみのドーピングへの関与を一貫して否定しているが、RUSADA関係者が真実を話すと政府に都合の悪いことがあり、だからこそそのキーパーソンが消されたという疑惑が信憑性を帯びてきたのである。

 すると、今度はその疑惑を晴らすためか、RUSADA関係者が、カマエフが亡くなる前に、時々、親しい友人に負担がかかる運動をすると心臓付近に痛みが出ると話していたということが報じられ、近親者が言っていた「心臓疾患は一切なかった」という主張を事実上否定することとなった。また、カマエフが生前に暴露本執筆を辞めたいと話していたというようなことも報じられた。つまり、ロシアの政府に近いメディアは暗殺疑惑の火消しを行ったと言えそうだ。もちろん、実際に暗殺があったかどうかは断定できない。しかし、このような怪しい動きがあったのは事実である。

シャラポワにも向けられた疑惑

 続いて、3月7日には、女子テニスの元世界ランク1位、ロシアのマリア・シャラポワ選手が記者会見を開き、1月の全豪オープンテニスでのドーピング検査で、禁止薬物「メルドニウム」の陽性反応が出たと発表したのだった。メルドニウムがWADAの禁止薬物に指定されたのは2016年1月と最近であり、シャラポワは「糖尿病の家系」であるとして長年服用していたと主張した上で、「メルドニウムが禁止薬物のリストに入ったことを知らずに服用した」と強調した。

 だが、メルドニウムは1970年代に旧ソ連で開発された薬で、確かに不整脈や糖尿病にも用いられるが、「持久力」を向上させる効能がよく知られている。そのため、意図的な服用を疑う声は根強い。スター選手のドーピング問題は、世界的に大きく取り上げられ、「ドーピング大国ロシア」のイメージを強めることになった。

 さらに、6月8日には、ドーピング疑惑報道を最初に行ったドイツの公共放送ARDが、ロシアのビタリ・ムトコ・スポーツ相がロシアサッカー界のドーピング隠しに直接関与した疑いがあると報じたのである。2014年8月、サッカーのロシア1部クラスノダールに所属する選手がドーピング検査で陽性になったことに対し、ムトコはそれをもみ消し、その証拠となる電子メールもあるとされている。ムトコは否定しているものの、国家ぐるみのドーピング疑惑はますます信憑性を増した。


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