2024年4月16日(火)

公立中学が挑む教育改革

2017年11月28日

教員の間にも浸透する「麹中メソッド」と「目指す生徒像」

 中学校とは一体、何なのか。改めて投げかけるこの問いに対して、工藤氏の答えは明確だ。

「世の中はまんざらでもない。大人になるって素敵なことだ。そう思って卒業してもらえなければ、中学校の意味はないと思っています」

「環境問題や平和問題を積極的に授業で取り上げるのはいいのですが、世の中の負の側面を伝えるだけでは生徒たちもネガティブになっていきます。世の中に課題があるのは当たり前。それによって対立が起きるのも当たり前。大人たちはそれを乗り越えて解決しようとしているんだというポジティブな話をしていきたいんです」

 工藤氏はこの考えを「麹中メソッド*」という2つの柱にまとめ上げた。社会で再現できる学び方を身につけるための「スキル」と、社会へのモチベーションを高めるためにロールモデルを見つける「スイッチ」を生徒たちに持たせてあげたいと考えている。さらに、麹中メソッドに基いて「麹町中学校が目指す8つの生徒像」を掲げた。

*麹中メソッド:①社会で必要とされる学び方の習得を支援する ②個性・特性を伸ばす機会を支援する

麹町中学校が目指す8つの生徒像(平成28年度 千代田区立麹町中学校 学校経営方針より)

 手帳やノートの使い方、思考ツール、パワーポイントを使ったプレゼンテーション技術の習得など、工藤氏が進める教育はこの生徒像を目指して行われている。アフタースクールとして運営する「麹中塾」や英会話スクール、写真やプログラミングなどを学ぶサークル活動もその一環。集団を意識して行動する力を養うため、体育祭や文化祭における生徒の自主運営を推進し、生徒会役員が学校運営協議会に出席することで、生徒たち自らも学校改善のあり方について提案を述べるなどしている。

 工藤氏が麹町中学校に赴任して3年半。「目指す生徒像」は、生徒、保護者、そして教員の間にもかなり浸透してきている。

「目指す生徒像が明確になっているからこそ、『上位目標の実現を妨げる手段を選ばない』という選択ができる。目的と手段を履き違えてはいけないと訴え続け、教員にもこの考え方が定着してきたと感じられるようになりました」

「目指す生徒像に向かうものであれば、教員の裁量で自由に施策を考えられるようにしています。成功している企業が理念に沿って社員に大きな裁量を与えているように、この学校でも全員が裁量を持ち、主体性を持って学校運営にあたっていくのが理想です」

 いかに学校トップの校長とはいえ、たった1人で改革を進めていくことはできない。「慣例」や「前例の踏襲」が重視されがちな公立校ではなおさらだ。事実、工藤氏の改革は、職員室に小さな狼煙を上げることから始まったのだった。

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「目的思考」で学びが変わる
千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦

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▼連載:公立中学が挑む教育改革
第1回:「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている
第2回:対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
第3回:先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
第4回:教育委員会の都合は最後に考えよう
第5回:着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
第6回:“常識破り”のトップが慣例重視の現場に与えた衝撃
第7回:親の言うことばかり聞く子どもには危機感を持ったほうがいい

第8回:保護者も学校を変えられる。麹町中の「もうひとつの改革」
第9回:社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない

第10回:人の心なんて教育できるものではない(木村泰子氏×工藤勇一氏)
第11回:「組織の中で我慢しなさい」という教育はもういらない(青野慶久氏×工藤勇一氏)
第12回:「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由
第13回:なぜ、麹町中学は「固定担任制」を廃止したのか
第14回:修学旅行を変えたら、大人顔負けの「企画とプレゼン」が生まれた
第15回:「頑張る」じゃないんだよ。できるかできないか、はっきり言ってよ​
第16回:誰かと自分を比べる必要なんてない(澤円氏×工藤勇一氏)
第17回:失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる(澤円×工藤勇一)
第18回:教育も組織も変える「魔法の問いかけ」とは?(澤円×工藤勇一)
第19回:「言われたことを言われた通りやれ」と求める中学校のままでいいのか(長野市立東部中学校)
第20回:生徒も教職員も「ついついやる気になる、やってみたくなる」仕掛け(長野市立東部中学校)

多田慎介(ライター)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

  
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