2024年11月23日(土)

Washington Files

2019年9月17日

対イラン政策の漂流

 トランプ政権はイラン核合意からの一方的離脱に端を発する国際危機に対処するため、今年初めから世界各国の同盟・友好諸国を対象に対イラン「有志連合」結成をあらゆる機会を通じて呼びかけてきた。しかしその後、イランと友好関係にある欧州各国はもとより日本なども含め、英国などごく少数の国以外、ほとんどこれに応じる目立った動きは見られない。1991年湾岸戦争当時、クウェートからのイラク軍撃退めざし米国主導の34か国で結成された「有志連合」による多国籍軍大作戦とは雲泥の開きがある。

 今回「有志連合」呼びかけが精彩を欠くのは、参加した場合、イランとの本格戦争につながりかねず、世界に大混乱をもたらすことを各国が懸念するからだ。

 こうした国際社会におけるアメリカの対イラン政策に対する批判が高まる中、トランプ大統領は今年9月に入り、従来の軍事力行使も含めたイランに対する「最大圧力 maximum pressure」スタンスから「対話路線」への軌道修正を模索し始めた。米ブルンバーグ通信によると、トランプ政権はロハニ・イラン大統領との直接会談を実現させるため、対イラン制裁の緩和をも検討し始めたという。

 そもそも米側による一方的イラン核合意離脱に端を発した国際危機とはいえ、ここでも、収拾策を見いだせない政府内の政策・見解のぶれと焦りを露呈させたかたちだ。

アフガン撤退秘密工作の失敗

 ホワイトハウスは今春以来、アフガニスタンからの駐留米兵撤退実現のため、同国旧支配勢力タリバンとの秘密接触を開始、今月前半には、トランプ大統領の強い意向で、立場に大きな開きのあるアフガン政府およびタリバン代表双方をワシントン近郊のキャンプデービッドに招き「歴史的合意」取り付けを画策しようとした。

 ところが直前になって、タリバン勢力がテロ攻撃で米兵らを死傷させたことを理由に、大統領自身がこの計画の「中断」を表明した。

 しかし実際は、ワシントン・ポスト紙などの報道によると、計画そのものの詳細にわたる詰めは終わっておらず、アフガン政府自体がほとんど内容を知らされてなかったばかりか、タリバン側の態度もあいまいなまま、大統領の号令一下、計画が進められたという。

 さらに、この極秘計画は事前に一部リークされ、米議会有力議員の間からも「あの忌まわしい『9・11テロ』の犯行グループだったアルカイダと深いかかわりのあるタリバン代表を、よりによって歴史的な大統領別荘に招待するとは何事か」といった猛烈な反発が出たことも背景にあった。

 結局、2016年大統領選挙に立候補して以来の選挙公約でもあった「アフガン撤退」を劇的に演出するため、トランプ大統領自身が功を焦った―というのが、米主要マスコミの大方の見方となっている。

 これらの事例が示す通り、トランプ政権発足以来の米外交は一貫性を欠き、同盟諸国を納得させるだけの精緻な戦略や展望とは程遠いものがある。

 そしてその底流にあるのが、「スタンド・プレー」、「思いつき」、「独断専行」に象徴される大統領自身の資質と政治手法だ。

 アメリカに対する世界の信頼回復は、このような“トランピズム”(トランプ主義)が続く限り、今後もあまり期待できそうもない。

  
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