食の安全 常識・非常識

2020年5月25日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

情報を信じる前に、査読ありかチェック

松永:ところで、先生は新型コロナウイルスと食品・成分との関係をこの場で語ってくださったり、先生が長年連載している「月刊 栄養と料理」で書かれたりするために、どれくらいの時間を割いて、いくつぐらいの論文・文献を読んで検討されたのでしょうか。

佐々木:月に1回の連載では毎回30から60くらいでしょうか。しかし、その半分以上はすでに読んであることがほとんどなので、もう一度さらっとおさらいする程度です。そういうテーマを選びますから。それに、読んだ論文は番号をつけて保管してありますから、読み直すのは簡単です。もう2万以上あります。新たに探して新たに読むのは残りの半分、15から30くらいといったところでしょう。

松永:連載は4000字ぐらいの文字数だと思いますが、そんなにたくさんの論文を読まれますか?

佐々木:けれどもたいせつなのは、単に論文をたくさん読むことではなく、自分が書こうとしている内容に反する論理や事実を扱った論文、すなわち、「反証」の存在に目を光らせることです。賛成派を増やすのではなく、反対派の意見に耳を傾ける。そして、反対派の研究者にも納得していただける内容にするようにします。反対派の意見が科学的でない場合は無視します。けれども、自分が書こうしていたことが誤っていたり、もっと正しい考え方が見つかったりして、恥ずかしくなって大急ぎで書き直すこともしばしばあります。

松永:ビタミンDというたった一つの栄養素の摂取を増やすか増やさないか、ということでも、こんなに多くの角度から厳しく検討しないといけない。「新型コロナと闘うための食品」というような情報をメディアで出したり広告宣伝したりする人たちは、この作業をしたうえで責任を持って情報を出しているのでしょうか。ビタミンDに関しては、日本の健康食品業界で欧米の医師がまとめたという「Covid-19 and Vitamin D Information」という文書が出回っています。ビタミンDの摂取が有効と強調しており、業界関係者は医師のお墨付きと受け止めています。

佐々木:批判するつもりは毛頭ないのですが、その文書は査読付きの論文ですか?

松永:査読というのは、科学者が学術誌に論文を投稿した際に、同じ領域の第三者の専門家が掲載の是非を決めるために行う審査のことですね。健康食品業界で出回っているこの文書は、査読付きではないようです。

佐々木:査読付き論文かどうか、というのは、判断するうえで重要なポイントです。加えて、その文書の背後に営利企業が後ろにいないかも見てください。医師が書いているとしても、その医師が営利企業から助成を受けて研究している場合が往々にしてあります

 要するに、ビタミンDの摂取が有効という文書を信じる前に、文章の立ち位置をよく見極める必要があります。主張について考えるのはその後です。

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