バイデン政権は、ロシア原油禁輸措置を検討している最中の3月5日、国家安全保障会議(NSC)高官や人質問題担当大使らをカラカスに派遣し、5年ぶりとなる米国高官とマドゥロ大統領と間の会談が唐突に開催した。これは、ベネズエラ原油により輸入を禁止するロシア原油に代替するための対ベネズエラ制裁緩和のための交渉とみられた。
トランプ政権時代には、経済制裁による最大限の圧力をかけマドゥロを退陣に追い込もうとしたが、結局ベネズエラ経済を破綻させただけで、民主化へ向けての何らの成果を上げないまま、バイデン政権に引き継がれた。バイデン政権では、とりあえず制裁措置はそのまま継続していたが、事態は行き詰まり、打つ手なしの状態であった。
昨年8月、ノルウェーの仲介で与野党間の協議がメキシコで開始され、バイデン政権はその成り行きを見守る立場になった。しかし、10月に米国がマドゥロ政権に資金提供を行っていたコロンビア人実業家をマネーロンダリングの疑いで拘束したことにマドゥロが反発し、交渉は中断したままとなっていた。
ベネズエラ経済も、昨年10月に現地通貨を100万分の1に切り下げ経済の破綻状態も底を打ち、社会主義的な経済規制を放棄した結果、2021年は経済がプラス成長に転じたと見られている。
バイデン政権は、3月8日、ロシア原油禁輸措置に踏み切ったが、もともとベネズエラ原油の禁輸措置による供給不足を同様の重質油であるロシア原油で補充した結果、ロシアからの原油の輸入が倍増した経緯があるので、ロシア原油禁輸により生ずる供給不足をベネズエラ原油で代替することは理にかなっている。
また、元海兵隊員や米国系石油企業Citgo社の幹部職員がベネズエラ側に拘束されており、その解放も米国にとっての課題であった。3月8日にベネズエラは、拘束していた2人の米国人(うち1人は5年前に逮捕されていた)を解放し、米国のベネズエラ原油の禁輸の解除を期待して米側のアプローチに応じた。