余裕がなくなる発電設備容量
今回の電力需給逼迫の背景には、3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震により東北地方の沿岸にある火力発電設備が影響を受け、操業できなくなったことがある。東日本大震災時、関東から東北地方沿岸の原子力発電所から火力発電所まで被害を受け操業ができず計画停電が実施されたが、規模は違うものの同じことが起こった。
現在操業が停止している発電所は計6基334.7万kWだ。東電管内に送電を行っている発電所は、広野火力発電所6号機(JERA) 60万kW。東電、東北電力管内に送電している発電所は新地火力発電所(相馬共同火力発電) 100万kWだけだ。残りの発電所は東北電力管内に電力供給を行っている。
図-2を見ると、今停止中の設備が稼働していたとしても、節電努力がなければ3月22日の電力供給は綱渡りだった。電力市場が自由化されたため、発電事業者は利用率が低く収益を生まない老朽化した石油火力を立て替える余裕はなくなり、電力需要が高まった時に供給する設備を保有できなくなってきている。
太陽光発電を中心に再生可能エネルギー設備の導入が増えれば、ピーク対応の火力発電設備の利用率はますます下がり、需要を賄うための設備はさらに減る。図-3の3月22日の太陽光発電設備の発電量を見れば、悪天候時に備え利用率の低い設備も保有する必要があることは明らかだが、電力会社は体力を失くしてきている。
上昇する電気料金と新規設備投資
欧州連合(EU)では昨年、天然ガス価格が高騰したため、各国政府は電気料金の上昇を抑制するため補助金を投入したり、電気料金に関わる税の減免を行ったりした。各国政府の抑制策にもかかわらず、小売り電気料金はEU27カ国平均で昨年30%上昇した。
日本では、化石燃料価格の変動を電気料金に反映させる燃料費調整制度が導入されている。簡単に言えば、3カ月間の化石燃料、石炭、石油、LNGの輸入平均価格の変動を毎月の電気料金に反映させる仕組みだ。各大手電力会社の燃料種別熱量構成比で計算された基準価格に基づき、3カ月平均の燃料費の増減を反映する形で毎月電気料金が調整される。
例えば、21年11月から22年1月の3カ月平均の燃料価格は22年4月の電気料金に反映される。調整制度には大きな電気料金の上昇を防ぐため上限額が設けられている。大手電力ごとの基準価格に50%上乗せした額が上限だ。
例えば、関東エリアで東京電力エナジーパートナーと従量制で契約している家庭では、22年4月分として1kWh当たり2.27円の負担になる。この燃料費調整額が既に基準価格を50%上回る上限に達した電力会社もある。北陸、関西、中国、四国、沖縄の5電力は上限に達しているので、燃料費が上がっても電気料金に反映できない。他の電力会社も上限に近づきつつある。