AIは一般論しか語らない
もっとも、AIは具体的なソリューションを提示していない。優等生的な答案だが、一般論にとどまっている。「睡眠」、「ストレス管理」、「仕事の目標設定」、「ワークライフバランス」などの語でGoogleやYahooで検索してみれば得られそうな情報ばかりである。
そこで少し掘り下げてみることにした。まず、「睡眠の質と量を高めるにはどうしたらいいでしょうか?」と尋ねてみた。回答は、「以下の方法を試してみる」ことを推奨していた。
2. 睡眠のルーティンを作る: 睡眠のルーティンを作ることで、体内時計を整えることができます。毎晩同じ時間に寝るように心がけましょう。また、寝る前にリラックスするための習慣を取り入れることも有効です。例えば、入浴や読書、音楽の聴取など、個人の好みに合わせたリラックス方法を試してみてください。(以下、略)
やはり、どこかの寝具メーカーのWEBサイトに載っていそうな情報である。今度は、「通勤に2時間かかっています。睡眠不足をどう解消したらいいでしょうか?」と問うてみた。
これでは答えになっていない。通勤時間が長いため帰宅が遅く、朝の起床も早くせざるを得ないから、結果として睡眠不足になるのである。「就寝時間を早めるか、起床時間を遅らせる」ことが必要だが、それができなくて困っているのであろう。
ChatGPTに対して、上記の「60歳、男性、企業の管理職」の身になって、しばらく同じような細部にわたる質問を投げかけてみたが、回答は例外なく一般論であった。何度も具体的に問うてみたが、そのつど他人事のように一般論に回帰する。
質問を繰り返すことで論点が絞り込まれて行って、最終的に自分に合った回答に収斂していくことを期待したくなるが、そのようなことはけっしておきない。そのつど振出しに戻らされる。
精神科医ならどうするか?
さて、筆者は精神科医なので、自分ならこの男性に対してどう言うかを考えてみた。
まず、即座に答える前に、逆に、こちらから問いかえすであろう。「睡眠の質や量」に関して、現状を尋ねるだろう。
平日は何時に起床し、何時に家を出て、何時の電車で、何分かけて会社まで行くか。そして、何時に退社し、何時に帰宅し、何時に就床するか。さらにいえば、晩酌をする習慣はあるか、寝酒の習慣はあるか、休日は何時まで寝てしまうかなどである。
平日と休日の起床時刻が大きくずれるようなら、睡眠負債が大きいことを意味する。立場上会食する機会が多いか、飲酒せざるを得ないか、休日もゴルフで駆り出されるか、なども訪ねておきたい。