2024年5月14日(火)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2023年6月13日

 通勤が電車でなく車での場合、さらに平日の勤務の実情を尋ねてみる。デスクワークで終日、椅子に座っているか、それとも、活発に歩き回るか。

 こうした質問を細かく訪ねて、即効性のあるところから着手するであろう。たとえば、飲酒である。習慣飲酒者は酒量を減らすだけで、メンタルの状態は改善する。仕事上の会食で飲酒する機会が多ければ、その際に「医者から『酒を控えるように言われています』と言ってください」とお勧めするだろう。

 寝酒をする習慣があるなら、「寝酒は不可。晩酌ならまだよし」という妥協案を示してもいい。アルコールは、その代謝産物のアルデヒドが覚醒をもたらすので、飲酒終了時刻を早めるだけでも、睡眠の質は上がる。

 睡眠時間を確保するために、座席指定列車を使う、あえて始発駅に行って、そこから始発電車に乗るなどして、車中で睡眠をとるように勧めてもいいであろう。1時間は与えられるはずの昼休みを、後半30分は仮眠にあてるのもいい。社内で仮眠できるスペースがないか、あるいは、近くに仮眠できるスポットがないかなどを尋ねてみてもいい。

 一週間のスケジュールを詳しく尋ねて、週の中ほどに普段より早く帰宅し、早く就床できる日がないかも聴くだろう。管理職で経済的には余裕があるだろうから、「水曜日は職場近くのビジネスホテルに泊まってはどうか?」と提案したりもするかもしれない。

 スマートフォン等で歩数を計測しておれば、確認する。平均6000歩を下回るようであれば、運動不足が睡眠の質を落としている可能性を考える。

 その場合、「エレベーターの代わりに階段を使いましょう」、「帰りは一駅先まで歩いて、そこから電車に乗りましょう」などと言うだろう。ディスプレーを見ている時間が長いようなら、「1時間に一回、トイレ休憩をとって、3階分、階段を昇って、そこのトイレを利用しましょう」などと言うかもしれない。

精神科医の仕事の本質は丁々発止

 ChatGPTとコミュニケーションしてみて、「AIの進化でいずれ廃業に追い込まれる」という危機感は感じなかった。精神科医の場合、ただ相手の話を受け身で聴くわけではなく、積極的に乗り込んで情報を取りに行く。必要とあらば、揺さぶりをかけることもする。

 患者は語りたくないことには黙し、見たくない現実からは目を背けようとする。その場合、意表をついて、からめ手からはいり、一気に本丸へと攻め込む場合もある。

 こういう丁々発止の心理戦が精神科臨床の本質だが、これなどはAIができるはずがない。現状では、「AIに精神科医の仕事が奪われる」とは、ジョークであるように思われる。

   
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