提督たちと記念写真に収まっていた重役と思しき人物に、日本メディアであることを伝えてインタビューを申し込むと、「担当じゃないから分からない」とけんもほろろに取材拒否されたが、時間を置いて別の男性に声をかけると、「潜水艦プロジェクトチームの責任者です。日本に留学していました」と親しげに対応してくれた。
「ハンファオーシャンはKSS-Ⅲ batch2の輸出に向けて、韓国政府とともにさまざまなレベルでカナダに働きかけを行っています。導入するか否かはカナダ政府の意思ですが、契約が締結されれば、6〜7年で就役させることができます。日本の三菱重工も狙っていると聞いていますが、KSS-Ⅲ batch2はカナダ海軍が求めるVLS(垂直発射装置)を装備しており、有利な状況にあると考えています」
わずか20年で潜水艦輸出国に成長した韓国
彼の自信に満ちた答えの背景には、防衛産業分野における韓国とカナダの急速な接近がある。昨年12月、両国は防衛産業軍需協力基本合意書(MOU)を改定し、秘密情報の共有を防衛産業分野にまで拡大する秘密情報保護協定(GSOMIA)の協議を開始した。
そのような中で、今年5月、トルドー首相が国交樹立60周年を記念して、カナダ首相として9年ぶりに訪韓した。両首脳の会談で潜水艦協定が締結されるとの憶測も出たが、そのような公式発表はない。しかし、国防分野での関係強化が話し合われたと報じられていることから、KSS-Ⅲ batch2についても言及された可能性がある。
上述の責任者は、「こちらの1400トン型は、主に中東への輸出用ですが、すでにインドネシア海軍で3隻が運用されています。また、同型艦を性能向上させたものがフィリピンに輸出される予定です」と続けた。
韓国海軍が初めて潜水艦を配備したのは1993年のこと。ドイツから209型SSを調達、統一新羅時代の海将にちなみ張保皐(チャン・ボゴ)と命名し、2番艦以降は輸入したパッケージを組み立てる形でDSMEが建造した。
そして、2016年には純国産潜水艦KSS-Ⅲを起工するとともに、1400トン型潜水艦をインドネシアに輸出するに至った。韓国は、世界中で10カ国ほどといわれる潜水艦建造国に、わずか20余年で加わったばかりでなく、米英仏独露に並ぶ潜水艦輸出国に成長したのだ。
韓国海軍の発展を見誤った海自将官の言葉
筆者は2008年に釜山で開催された韓国海軍創設60周年記念国際観艦式に情報幕僚として派遣され、大洋海軍を目指す韓国海軍の姿を目の当たりにした。当時は艦橋に掲げられた「大洋海軍」の額装を、韓国海軍が抱くはるか遠くの夢としか思えなかったが、時を経て、韓国海軍はブラウンウォーター・ネイビー(沿岸海軍)からブルーウォーター・ネイビー(外洋海軍)に脱皮しつつある。
その飛躍を側面から支えているのが、盧武鉉政権時の2006年に創設された防衛事業庁(DAPA)が司令塔となって展開されている防衛産業振興政策だ。同庁創設時2.5億ドルだった武器輸出額は、22年には170億ドル(約2兆4000億円)を突破し、23年には200億ドル(約2兆8000億円)に迫ると見られている。
このように韓国は、日本の航空機産業や防衛産業(ともに約1兆8千億円規模)を大きく上回る産業を20年も経たずに作り上げた。この過程で、韓国の防衛産業が海外企業と競争し、良質な兵器を生み出すに至ったことは、容易に想像がつくだろう。
非常に残念なことだが、MADEX2023の会場で見かけた日本人は、指揮官や幕僚を養成する韓国軍の大学に留学中の自衛官しかいなかった。また、当然のこととして、日本企業の出展もなかった。筆者は、韓国の艦艇模型や武器システム、ドローンを目を輝かせて見て回り、ブースで質問したり商談したりする各国軍人やメディアの姿を見て、やり場のない悔しさにとらわれた。
そして、韓国が潜水艦を導入した時に、ある海上自衛隊の将官が語った、「沿岸海軍しか持ったことがない韓国に潜水艦を運用することはできず、ただのシンボルに過ぎない。将来にわたって自国で潜水艦を建造することなど無理な話だ」という言葉を思い出した。