ここで求められるのは、港ごとの競争を前提とした発想からの決別だ。 今後、日本が目指すべきは、どこか一港をハードウェア的に巨大化する一点集中モデルではない。全国の港を、デジタルと運用の力で束ね、あたかも「日本全体を一つの巨大港のように機能させる仮想統合モデル」である。
具体的には、入出港情報、バースの利用状況、荷役能力といった海運・港湾情報を横断的に統合、可視化し、関係者がリアルタイムに状況を把握できる「統一されたデジタル基盤」を構築する。これにより、遅延の兆候を早期に検知し、混雑時には別港での荷役や、内航船・鉄道・トラックを用いた代替ルートを即座に提示可能にする。 制度と運用が標準化され、柔軟なリルート(経路変更)が当たり前になれば、定時性は担保され、日本は再び「計算できる寄港地」としての信頼を取り戻せるはずだ。
もちろん、内航船・港湾人材、トラックドライバーなど現場の人手不足やインフラの制約といった現実は重い。しかし、それを理由に思考停止してはならない。
人手が足りないからこそ、省人化・自動化への投資や、AIによる運行最適化へ舵を切る好機でもある。 また、港が分散していることは弱点ばかりではない。「分散しているからこそ、代替でき、止まりにくい」。この特性は、災害リスクを抱える島国にとって、事業継続計画(BCP)の観点から強力な競争力となり得る。
再び世界から選ばれるための転換点
今、求められているのは、「安全のための分散」と「競争のための集中」を対立概念として捉えるのではなく、両立させる発想である。インフラ整備を進めつつ、港湾間の連携や役割分担を高度化し、国家全体としての競争力を高めていく視点が不可欠だ。
日本の港湾が直面しているのは、単なるインフラの問題ではない。 これまで分散していた国力を、デジタルによってどこまで束ね直せるかが問われる「転換点」なのだ。官・民・労が同じ航海図を共有し、日本という国そのものを「一つの高機能港」として世界に提示できた時、我々は再び選ばれる側に立つ。
海に囲まれた日本の国民生活は、今日も港を通じて世界とつながっている。 その接続を、今後も自らの手で安定的に確保できるかどうか。
その答えは、国内で小さなパイを奪い合うか、国家として「束ねる力」を取り戻し、世界へ挑むか。私たちの選択と覚悟にかかっている。
