2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年8月31日

 8月10日、ドナルド・トランプ米国大統領は、次のようにツイートした。

 「私は、トルコに関する鉄鋼及びアルミニウムの関税を2倍にすることを許可したばかりだが、トルコの通貨、トルコ・リラは、我々の大変強いドルに対して、たちまち下落した!アルミニウム(の関税)は、今や20%に、鉄鋼は50%になる。現在、我が国とトルコとの関係は、良くない!」

 トルコのエルドアン大統領は、8月10日付のニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、トルコはNATOの同盟国として米国と協力してきたが、近年、米国とトルコとの関係は悪化しており、今回のような一方的な米国のやり方は、米国の利益を害することにもなり、トルコとしても他の友好国や同盟国を探すようになってしまうと、と述べた。その後も、エルドアン大統領は、トランプ政権を非難し、報復関税や米国製品へのボイコットを呼びかけた。8月18日には、与党、公正発展党(AKP)の党大会で、制裁関税や通貨リラの下落は、「経済クーデター」だとして、暗に米国を批判した。

 そもそも、米国がトルコへの鉄鋼及びアルミニウムの関税を倍にしたのは、トルコに拘束された米国人牧師の即時解放に応じないトルコに対する制裁の意味があった。米国では11月に中間選挙を控え、トランプ大統領としても、米国人解放を手柄に、選挙に臨みたい意向もあろう。

 トルコ通貨のリラが暴落し、トルコは通貨危機を迎えている。 その直近の要因は、上記で述べたように、トランプ政権によるトルコからの鉄鋼及びアルミニウムの輸入に対する報復関税の付加であった。しかし、リラの暴落の真の原因は、エルドアン政権の経済政策にあると見ることもできる。

(GA161076/emregologlu/iStock)

 エルドアン大統領は、リラを支えるための金利引き上げに反対し、中央銀行に対する影響力を強化し、また、経済政策の要の財務大臣に、経済に詳しくない義理の息子を任命した。その結果、市場の信頼を失い、リラ売りを呼んだものと見られている。

 トルコ経済は、従来より、経常収支の赤字に悩まされ、ドルやユーロの対外借り入れで対処してきた。リラが暴落すると、返済が困難になり、通貨危機は、債務危機や流動性の危機に発展する。 

 トルコは、世界で 18 位の経済であり、リラ暴落の影響は、すでに外国為替市場に反映されている。欧州は、スペイン、イタリア、フランスの大手銀行がトルコに巨額の債権を有しており、リラの暴落の欧州の金融システムへの波及が懸念されている。そのため、ユーロが下落し、その反射もあって、円とドルが上昇している。

 また、新興国トルコの通貨危機、経済危機は、他の新興国経済にも影響を与えうる。 


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