公立中学が挑む教育改革

2019年9月13日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。著書に『「目的思考」で学びが変わる 千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(ウェッジ)。

「こうしなきゃいけない」ではなく「こうしていきたいな」

 生徒が少しずつ変わっていったのは、教職員が考え方を変え、新たな仕掛けを生み出していったからだ。

 2019年度に東部中学校へ赴任した保健体育教諭の冨田美咲氏は、北澤校長との日々のやり取りで考え方が変わっていったと話す。赴任初年度から1年生の学年主任を任され、プレッシャーを覚えながらも早く中学生活を軌道に乗せるための方策を考えていった。

富田美咲先生

 小学校時代には常に担任の先生が身近にいた1年生については、最初から学年担当制を導入するのではなく、徐々にクラス担当の教員ローテーションを回している。学年集会では「みんなには1年生担当の10人の先生全員が付いているよ」と語りかけているという。

 「当初は、宿題など決められたことを確実にやる習慣作りが大切だと考えていました。そこで1週間に一度、提出させて点検しようと思ったんです。でも校長から『今までのように、ただチェックのサイン一つで返すだけなら、生徒の考え方は変わらないだろうね。時々でいいから自主学習ノートをもとに、生徒と対話できないかな』と言われました」

 それって、何のためにやってるの? 冨田氏がよく問いかけられるという北澤校長の「口癖」だ。

 「生徒たちが、『こうしなきゃいけない』ではなく『こうしていきたいな』と自発的にやる気を出してくれるような仕掛けを考えるべきなのだと気づきました」

 2年生の学年主任を務める村上氏は「北澤校長の着任初日から職場の雰囲気が変わったように思います」と振り返る。

 「校長は校内を足繁く回って生徒によく声をかけ、教職員にも頻繁に声をかけてくれるんです。学校はとかく、『私はこんな思いを持って生徒に接しました』という教員サイドの思いが前面に出がち。私自身も『自分がよかれと思ってやっている』というスタンスの時期が長かったように思います。でも校長はとにかく『Student First』、いつも純粋に生徒起点で物事を考えていることが伝わってきます」

 こまかいことは言わないけれど、日々理念を語りかける――。そして教職員それぞれの強みを見出し、頑張っていることを評価する。

 「校長と接していて、自己肯定感が高まった自分に気づきました。まさに私たちにも『こうしなきゃいけない』という重圧ではなく、『こうしていきたいな』というやる気を持たせてくれているのだと思います。校長室がオープンなので気軽にアイデアを話しに行けるし、そうすると校長がさらにアイデアをくれるという好循環がありますね」

 確かに筆者が東部中学校を訪れているわずかな間にも、教員が入れ替わり立ち替わりで校長室へ入り、相談している姿が見られた。

 「『生徒たちがついついやる気になる、やってみたくなるような仕掛けを考えよう』という視点で考えるようになりました。思えば私たち自身も、そうやって変わってきているのかもしれません」

▼連載『公立中学が挑む教育改革』
第1回:「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている
第2回:対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
第3回:先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
第4回:教育委員会の都合は最後に考えよう
第5回:着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
第6回:“常識破り”のトップが慣例重視の現場に与えた衝撃
第7回:親の言うことばかり聞く子どもには危機感を持ったほうがいい
第8回:保護者も学校を変えられる。麹町中の「もうひとつの改革」
第9回:社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない
第10回:人の心なんて教育できるものではない(木村泰子氏×工藤勇一氏)
第11回:「組織の中で我慢しなさい」という教育はもういらない(青野慶久氏×工藤勇一氏)
第12回:「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由
第13回:なぜ、麹町中学は「固定担任制」を廃止したのか
第14回:修学旅行を変えたら、大人顔負けの「企画とプレゼン」が生まれた
第15回:「頑張る」じゃないんだよ。できるかできないか、はっきり言ってよ​
第16回:誰かと自分を比べる必要なんてない(澤円氏×工藤勇一氏)
第17回:失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる(澤円×工藤勇一)
第18回:教育も組織も変える「魔法の問いかけ」とは?(澤円×工藤勇一)
第19回:「言われたことを言われた通りやれ」と求める中学校のままでいいのか(長野市立東部中学校)
第20回:生徒も教職員も「ついついやる気になる、やってみたくなる」仕掛け(長野市立東部中学校)

多田慎介(ライター)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

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