2024年4月20日(土)

World Energy Watch

2020年12月1日

EV化の落とし穴

 欧州を中心に各国ともEV導入に熱心だが、落とし穴がありそうだ。まず、全ての車が電動化に適しているわけではないので、電動化以外の技術開発も必要になる。日本の自動車からのCO2排出量では、大型トラックからの排出が約4分の1を占めている。テスラが17年に大型BEVトラックを発表したが、当初予定の19年導入は遅れ21年にずれ込んだ。大型BEVトラックの航続距離を確保するには大きな蓄電池が必要となり、荷物を運んでいるのか電池を運んでいるのか分からなくなる欠点がある。テスラのトラックでは8トンの電池が必要になると言われている。大型車には燃料電池が適していると考えるメーカも多い。トヨタも燃料電池トラックの開発に乗り出している。

 最近報道されたバッテリーの発火も問題だ。韓国、米国、欧州でEV車の電池が発火し火災になった事件が相次いだ。韓国ヒュンダイ製BEVコナは、韓国、北米などで16件の火災を引き起こし74000台がリコールされた。韓国では中古車価格の値下がり補填と電池の取り換えを要求する集団訴訟も起こされた。電池を製造したLG化学は原因を調査中としている。

 同じLG化学製電池を積んでいる米GM製BEVボルトも5件の火災が報告され、6万9000台がリコールされた。米運輸省高速道路交通安全局が駐車中の火災3件について調査を開始していると報道された。サムスンSDI製電池を積んでいる米フォードのPHEVクーガも7件の火災を受け2万500台をリコールし、販売を中断した。同じサムソンSDI製電池を使用しているBMWも2万6000台をリコールした。安全性が高く充電時間が短いとされる全固体電池の実用化が待たれる。

 バイデン次期米大統領は、EV製造により自動車業界で組合員の雇用を創出すると綱領で明らかにしたが、全米自動車労組は冷ややかだった。EV化により自動車の製造ラインでの組み立て工程は30%から40%減るとみられており、EV化は雇用削減につながる可能性が高いからだ。EUの自動車製造の雇用者数は370万人、全製造業雇用の11.5%だ。ガソリンスタンドがEVスタンドに代わることによる雇用減もあるだろう。EV化の最も大きな落とし穴は雇用が失われることかもしれない。

  
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