2022年7月1日(金)

食の安全 常識・非常識

2022年5月14日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

米国での裁判は、表示をめぐる問題

 なお、こうした科学的な評価とは別に、米国では裁判が起こされており、一部の国は使用を規制していますので、これらの情報も簡単にお伝えしましょう。

 米国では、モンサント社を買収したバイエル社が販売する製品ラウンドアップをめぐり裁判が起こされています。ラウンドアップを使用した農家や家庭菜園で使った市民らが、がんになったとして裁判を起こし勝訴しています。しかし、21年の二つの裁判では逆に、バイエル社が勝ちました。同社は以前に負けた裁判についてもレビューするよう、連邦最高裁判所に上訴しています。

 裁判では、発がん性があるかどうかの科学を検討しているわけではありません。主な争点は、がんになる可能性を購入者に示していたかどうかのようで、バイエル社はどの裁判でも「発がん性はない」ということを一貫して主張しています。

 また、使用規制を課している国々もあります。フランスは19年12月には、遺伝毒性に関する情報が十分でないとして流通量の4分の3に相当するグリホサート製品の登録を取り消しました。また21年には、グリホサートを使わない農業者に対する税制優遇措置を始めています。

 EUでは、オランダが個人使用を全面的に禁止。オーストリアやベルギー、イタリア、デンマークなども使用を制限しています。また、メキシコも段階的使用禁止に踏み切っています。

 ただし、一部の報道にあるような「世界的に禁止の流れ」にあるとは言えません。普通に使われている国の方が圧倒的に多いのです。また、全面禁止の国は少なく、多くの国が一部の使用方法に規制を課しています。JMPRやEFSA等のリスク評価を見て、使用禁止を解除した国もあります。

日本では農薬再評価制度が始まる

 グリホサートの発がん性問題は今後、EFSAが最終的にどのような報告書をまとめるかが、大きな焦点となりそうです。それにより、各国の規制も変わってくるかもしれません。

 日本では、昨年度から農薬の再評価制度が始まりました。グリホサートも、最初に再評価に着手する農薬の一つとなっています。農薬メーカーが新たな知見も含むデータを国に提出しており今後、食べる場合の安全性については内閣府食品安全委員会と厚労省の審議会が、使用する農業者の安全については農水省が、栽培時の環境影響については農水省と環境省が検討します。 

 内閣府食品安全委員会は、農薬メーカーからの提出データだけでなく、必要に応じて新たなデータを要求したり、学術論文も収集してそれらを含めリスク評価をすることにしています。予断なく、試験条件や結果等のデータを科学的な信頼性を確認しながら、リスク評価してゆく予定です。

(本記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

<参考文献>
Séralini GE et al, Republished study: long-term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize. Environ Sci Eur. 2014;26(1):14.
Final review of the Séralini et al. (2012a) publication on a 2-year rodent feeding study with glyphosate formulations and GM maize NK603 as published online on 19 September 2012 in Food and Chemical Toxicology. EFSA Journal 2012;10(11):2986.
食品安全委員会会議資料5-2・除草剤グリホサート耐性トウモロコシ NK603 系統の毒性発現に関する論文に対する見解(2012年11月12日) 
国際がん研究機関・IARC Monograph on Glyphosate
欧州食品安全機関(EFSA).Glyphosate
アメリカ環境保護庁(EPA)・EPA Releases Draft Risk Assessments for Glyphosate For Release: December 18, 2017
アメリカ環境保護庁(EPA)・Interim Registration Review Decision and Responses to Public Comments for Glyphosate:In January 2020
FAO/WHO合同残留農薬専門家会合 (JMPR)・Results of joint FAO/WHO Meeting on Pesticide Residues (JMPR)
内閣府食品安全委員会食品安全関係情報詳細・欧州食品安全機関(EFSA)、欧州連合加盟国4カ国が実施したグリホサートの評価報告書案を受理し、EFSAと欧州化学品庁(ECHA)が更新評価のレビューを開始すると公表(2021年6月15日)
国際がん研究機関(IARC)・Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–131
Nature ダイジェスト. 医学生物学論文の70%以上が、再現できない! 2013; 10(11)
厚労省・食品中の残留農薬等
中西希代子ら.マーケットバスケット方式によるグリホサートの一日摂取量の推定. 日本食品化学学会誌、2013; 20(1),37.
Reuters・Bayer wins second straight verdict in a Roundup cancer case 2021年12月10日)
The legal examiner・Roundup Lawsuits Update: Still Waiting To See If Supreme Court Will Get Involved(2022年4月19日)
食品安全委員会・食品安全セミナー「農薬の再評価」資料

  
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